「生きろ」と書き続けることがアートだ。紙に、地面に、自分の体に。文字を並べ、その中で書く「イキロ プロジェクト」は1996年に始め、世界約30カ国で展開してきた。
だが、昨年1月16、17日の西宮中央商店街(西宮市)ではためらいがあった。復興イベントでの企画は初めてだったからだ。大切な人を亡くした被災者はどう受け止めるのだろう。「生きろ」という言葉は強すぎないか。震災当時は米国を拠点に活動し、被災の現場を知らない。
来場した人たちが一人、また一人と書いた。それぞれが背負う経験や未来を託すように約900枚の紙をササに結んだ。「生きろ」が揺れるササは、まるで命の森だった。
「祈りに通じるのかもしれない。自分で書いた言葉は鏡のようなもの。心と向き合うのだろう」。ためらいは確信に変わった。
その後も各地で続ける。書き始めた15年前に比べ、今日の方が反応が大きい。「不安だらけの時代。言葉がより切実なのかな」
だからこそ明日の希望を伝えたい。宝塚市の自宅に約4千人分の「生きろ」を保管する。会場いっぱいに並べる日を目指し、今年も西宮中央商店街に向かう。(神谷千晶)
=おわり=
2011/1/15