東日本大震災翌年の2012年8月。神戸協同病院(神戸市長田区)院長、上田耕蔵(63)は復興庁の「震災関連死に関する検討会」からヒアリングを受けた。
関連死は、地震や津波による「直接死」と異なり、劣悪な避難環境などで亡くなることをいう。
上田は阪神・淡路大震災でその「新たな死のかたち」に気付き、概念を広めた。阪神・淡路では6434人の死者のうち921人とされる。当時、国は実態の把握さえしていないが、東日本で初めて対策に乗り出した。
東日本の関連死は既に3千人を超え、阪神・淡路の3倍以上だ。東京電力福島第1原発事故で多くの高齢者が度重なる避難を強いられた福島県では、直接死を上回る。
「次の大災害でも多くの関連死が起こり得る」と上田。19年前の震災で見えた問題は、高齢社会の災害での共通課題となりつつある。
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災害はその都度、異なる死のかたちを示す。
住宅倒壊で多くの人が亡くなった阪神・淡路は「住宅が凶器となる」恐怖を示した。巨大津波に襲われた東日本は直接死の9割が溺死だ。
阪神・淡路は「孤独死」が社会問題となる契機にもなった。1人暮らしの人が誰にもみとられずに亡くなる。仮設住宅では233人。見知らぬ人ばかりの住宅で、死後何カ月も発見されない例が相次いだ。被災者向けの災害公営住宅でも824人に上る。
仮設住宅の孤独死は50~60代の壮年男性が目立った。背景として注目されたのが、アルコール依存症だった。
阪神・淡路大震災復興基金を活用して17年前に開設されたアルコール依存症者向けの「兵庫本町作業所」(神戸市須磨区)には、今も約20人が通う。3年前からは依存症の問題を抱える高齢者らの介護センターも併設する。
運営するNPO法人「神戸みのり会」の理事長で、自身も依存症から回復した芦谷真隆(64)は「介護の現場でもアルコール依存の高齢者への対応に悩んでいることが分かってきた」と話す。
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「孤独死」は、普段の暮らしでも起きている。
「アルコール依存症も、地域にいた人々が仮設住宅に集まり、問題が見えやすくなったということ」と上田は言う。
災害は、社会の弱さをあぶり出す。福祉や医療の穴を突く。気付いたときには、問題は深刻化している。
次の大災害はさらに少子高齢化が進んだ状態で迎える。過去の教訓だけでは乗り越えられない。弱点に目を凝らしておかねばならない。
=敬称略=
(磯辺康子)
2014/4/24