西宮市の関西学院大学にある災害復興制度研究所。阪神・淡路大震災から20年に向け、今年1月、復興の法制度を総点検する研究会が始まった。
同研究所は阪神・淡路から丸10年の2005年1月、「復興制度」に焦点を当てた全国初の研究機関として発足した。5年後、「復興基本法」の試案を発表。都市や構造物の再建ではなく、「人間の復興」を中核に据える基本理念を示した。
研究会はその理念を受けて被災者支援の制度を体系化し、「総合支援法」として具体化することを目指す。
「現在の法制度は、一人一人の暮らしを総合的に立て直す仕組みになっていない。パズルのピースのようにばらばらで、足りない部分も多い」と同研究所教授の山中茂樹(68)。東日本大震災の課題を検証した上で、来年から順次、提言を発表する。
■
昨年6月。大災害後の復興の枠組みを定める「大規模災害復興法」が成立した。
復興に関わる恒久法は日本で初めて。短期間の復旧しか想定していなかったそれまでの法制度を考えれば、一歩前進だった。ただ、内容は国が復興対策本部を設置し、基本方針を策定するといった形式を示すにとどまる。被災者の暮らし再建の道筋は見えてこない。
日本弁護士連合会災害復興支援委員会の副委員長で、関学大の研究会メンバーでもある津久井進(45)=尼崎市=は「行政側の手続きを定めているだけで、復興の中心であるはずの住民がほとんど登場しない」と、問題点を指摘する。
■
阪神・淡路大震災は、災害法制の大きな転換点だった。
その象徴が、被災者らの運動で1998年に成立した「被災者生活再建支援法」。被災者の生活再建を、公的資金で支える仕組みが生まれた。
当初は、住宅の全壊世帯などに最高100万円を支給する内容だったが、その後の改正で最高300万円となり、年収要件や使途の制限も撤廃された。今年3月までの支給総額は、55災害で約3186億円。兵庫県も三つの台風で適用された。
だが、被災者支援の制度は災害のたびに継ぎ足され、自治体職員も全体像を理解できないほど複雑になっている。
仮設住宅の提供などを定める災害救助法、遺族や重度障害が残った人への現金給付を含む災害弔慰金法。さらに、公営住宅法など平時の仕組みが絡み合う。
国は昨年10月、被災者支援に関する有識者検討会を設置し、制度見直しに向けた議論を始めた。
「阪神・淡路では住宅再建が焦点となったが、生業支援の検討は不足していた。人々の暮らしが多様化している今、選択の幅や弾力性のある制度が必要だ」と、検討会座長の神戸大学名誉教授、室崎益輝(よしてる)(69)。
室崎が制度づくりの基本として常に頭に置くのは、憲法の「人間らしく生きる権利」という。
内閣府の調査では、東日本大震災関連の自殺者は今年4月までに125人に上る。復興の途上で、被災者は今も、生きる権利さえ保障されない状況に置かれている。
=敬称略=
(磯辺康子)
=第1部おわり=
2014/5/29