阪神・淡路大震災の被災地には、全国で初めて公営のコレクティブハウジング(協同居住型集合住宅)が建設された。
各住戸は独立しているが、共同で使う居間のような空間があり、入居者の交流を促す。主に高齢者向けで、神戸、尼崎、宝塚市内に計10カ所、341戸ある。
その一つで、災害公営住宅が立ち並ぶHAT神戸にある兵庫県営「脇の浜ふれあい住宅」(神戸市中央区、44戸)。6階建て住宅の玄関を入ると、目の前に2階まで吹き抜けの食堂兼居間が現れる。
「ほとんど使ってませんね。電気代や水道代がかさむから」
自治会長の山地光夫(81)は苦い表情で言う。同じ共用空間は3階と5階にもあるが、人影はない。入居開始から15年。当初開かれていた誕生日会などはなくなった。
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震災は「コミュニティーとは何か」という問いを私たちに投げ掛けた。
住宅倒壊などで救助を必要とした人の約8割は、警察や消防などの公的機関でなく地域住民らに助け出されたとされる。行政は自ら「公助」の限界を口にし、「共助」の重要性を訴え始めた。
一方で、被災者は元の地域を離れて散り散りになり、仮設住宅では孤独死が相次いだ。「コミュニティー再生」は復興の重要課題となった。
コレクティブハウジングは、その模索の中で生まれた。入居者の見守りやコミュニティーづくりのため、ほとんどの住宅に生活援助員(LSA)も配置されている。
住民からは「安心感がある」との評価が聞かれる。だが、高齢者が集まる住宅だけに、認知症の症状が出たり入院したりする人も少なくない。
LSAの派遣事業を担当する神戸市社会福祉協議会は「住民がコミュニティーづくりの中心となるのが本来の姿だが、担い手を探すのが難しい」とする。
脇の浜ふれあい住宅でも住民の高齢化、入れ替わりが進む。完成当初からの住民は、3分の1以下になっている。
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「同じ地域に住んでいるだけでは『コミュニティー』とはいえない。どんな暮らしをするかという共通の認識があってこそ、成り立つものだ」
東日本大震災の復興支援にも関わるNPO法人神戸まちづくり研究所(神戸市)の事務局長、野崎隆一(70)は話す。
東日本では、新潟県中越地震(2004年)などを参考に、木造の一戸建てや長屋形式の災害公営住宅が導入されている。縁側の設置など交流を促す取り組みもある。
災害のたびに生まれる新たな試み。だが多くの場合、行政はハードの整備で終わってしまう。長期のコミュニティーづくりを支える視点や工夫は乏しい。
阪神・淡路での挑戦は、どんな成果と課題をもたらしたのか。震災から20年後の検証は、東日本の今後と無縁ではない。超高齢社会でも重要な意味を持つ。
=敬称略=
(磯辺康子)
2014/5/16