ごう音とともに、新快速電車が駆け抜ける。神戸市長田、須磨の区境に位置するJR鷹取駅。鉄道コンテナが山積みにされた貨物ターミナルの向こうに、震災復興区画整理事業でできた新しい街が広がる。
阪神・淡路大震災で、当時の駅舎の片隅に設置されていた強震計(針が振り切れてしまうような大地震を記録できる地震計)が、強烈な地震波形を捉えた。この波形は、阪神・淡路大震災を代表する観測データとして耐震工学で重用され、全国の道路橋耐震設計の基準になっている。
なぜ、多くの鉄筋ビルが倒れた三宮(神戸市中央区)や、高速道路が倒壊した深江本町(同市東灘区)でなく、鷹取駅なのか。筑波大教授の境有紀(ゆうき)(53)が答える。
「強震計が置かれた地点で鷹取駅の記録が最も破壊力が強かったからでは。三宮にも深江にも、強震計はなかった」
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日本の強震観測網は今でこそ5千地点を超えるが、震災当時は100地点程度だった。これ以外に、鉄道駅やガス・電力施設などに強震計が置かれていたが、被災地にあったのは、実質的に鷹取駅、旧神戸海洋気象台(神戸市中央区中山手通7)、大阪ガス葺合供給所(同区北本町通2)など数カ所だった。
このうち「最強」とされた鷹取駅の観測データが、日本の道路橋の実質的な耐震基準となっている。だが、鷹取駅周辺の全壊率は約6割と高かったものの、駅舎自体は旧耐震基準ながら全壊を免れた。300メートル南にある阪神高速の高架橋が倒壊したわけでもない。
境は「被害程度から三宮や深江本町の方が鷹取よりも破壊力の強い揺れがあったと推定できる。論文も発表されている」とする。日本の耐震工学が「阪神・淡路大震災」として用いてきた数値は、本当の破壊力には満たないのかもしれない。
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では、本当の破壊力はどの程度だったのか。地震の揺れは震源からの距離に応じて推定されてきたが、神戸大教授の長尾毅(53)=地震工学=は「距離が同じでも、地点ごとに揺れ方は全く異なる」と指摘する。
地震被害は地盤によって大きな差が出ることは知られるが、近年の研究で、地盤のさらに地下の「深層地盤」の震動増幅作用が被害度を左右することが分かってきた。長尾は「わずか100メートルでも、被害に雲泥の差が出ることがある。『サイト増幅特性』と呼ぶが、震災で被害が激しかった地点の破壊力はJR鷹取駅を上回っていた可能性がある」と推論する。
だとすれば、日本の道路橋は、実際に高速道路を倒した阪神・淡路級の激震に耐えられるかどうか分からない。
国土交通省の技官は反論する。「阪神・淡路後の基準で設計した橋が、最大震度7の東日本大震災に耐えた。安全性は実証されたということだ」
本当に、そうなのだろうか。
=敬称略=
(森本尚樹)
2014/10/20