道路橋の耐震基準を満たすだけでは、人命を守れないのではないか。取材に対し、阪神高速道路の広報担当者は困惑した様子で言った。
「それを評価する立場ではない。基準に基づき設計せざるを得ない」
南海トラフ巨大地震の推定地震動は、大阪、兵庫に基準を超える揺れをもたらす可能性がある。担当者は「既存の橋が耐えるかは確認したい」としながら、基準を超える全般的な耐震補強は「難しい」と繰り返した。
担当者は「できるだけ頑丈なものを造りたいとの思いはあるが、安全に無限の投資はできない。基準は公共財をつくる上での費用面の一線でもある」と説明した。
阪神高速の対応について、東京工業大名誉教授の川島一彦(66)は「分からなくもない」と理解を示す。
「公共事業では、基準を上回る耐震設計はプラスアルファな支出だ。最低限を定める基準が実際は上限になっている」
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基準とは別に、技術は日々進歩している。「深層地盤」の増幅作用で、地震の揺れや周期が地点ごとに異なる「サイト増幅特性」を解明する神戸大教授長尾毅(53)=地震工学=は、地盤の「常時微動」から同特性を推定する手法の精度向上を進める。
東日本大震災の1カ月後、長尾は被災地の港湾被害を調査した。鹿島港(茨城県)では、アスファルトが大きく波打った地点と無傷の地点との距離は100メートル以内だったが、同特性から揺れ幅に大きな差が見つかった。小名浜港(福島県)では、周期の違いが港内での被害の差を生んだ。
「阪神・淡路大震災でも、わずか数十メートルの違いで、建物被害に大きな差が出た。常時微動で同特性を調べれば、その理由が大体分かる」と長尾。港湾や鉄道構造物の耐震基準は同特性を加味した設計を求めるが、道路橋の基準には規定がない。
地震の揺れが橋の構造にどう作用するかを解明する技術も進む。名古屋工業大教授の後藤芳顕(65)=耐震工学=は今年2月、コンピューター上で水平同時2方向の揺れを橋に与えて挙動を解析するプログラムを完成させ、大型の模型実験で実証した。
1方向の揺れを別々に与える従来の方法では、橋がどう揺れ、壊れるのかを正確に再現できなかった。後藤は「想定外の地震が起きた場合でも、橋が壊れるメカニズムを予測できれば、壊れても倒れないなど人命を守る工夫はできる」と語る。
現行の道路橋の基準には、想定を超える地震が起きた場合の対処についての記載はない。
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逆に地震被害により、基準の範囲内で広く普及した技術の「欠陥」が明らかになる事例もある。1982年、北海道・浦河沖で起きたマグニチュード(M)7・1の地震で、1本の橋脚に重大な損傷が見つかった。
その警告は、13年後の悪夢へとつながる。
=敬称略=
(森本尚樹)
2014/10/23