1975年の開通から間もなく40年。播磨南部の大動脈、国道2号姫路バイパスの1日の平均交通量は11万台超と、高速道路並みだ。18・4キロのうち9・3キロが、橋や高架道路である。
その多くは、阪神・淡路大震災を踏まえ96年に改定された耐震基準を満たしていない。一般に建物や土木構造物の基準が改定されても既存の物には適用されない。この「既存不適格」の解消は、道路管理者の自主性に委ねられている。
「橋脚補強や落橋防止は実施済みで、倒壊したりはしない」。国土交通省姫路河川国道事務所副所長の宮川久(54)は強調するが、加古川バイパスや国道29号を含め、同事務所が管理する直轄国道の高架や河川橋で、震災後の基準を満たすのは4割にとどまる。
宮川は腕を組んだ。「一気にやりたいが、人と予算には限りがある」
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マグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震の発生が懸念される中、全国の緊急輸送道路(国道、高速道路など)全体でも補強率は79%にとどまる。同地震を想定した道路橋の耐震対策を検討しているのは大阪府などわずか。「阪神・淡路」前の耐震基準さえ満たしていない188橋の補強を計画的に進める兵庫県は「従来の基準を尊重したい」と言葉を濁す。
確かに、内閣府が公表した南海トラフ巨大地震の最悪想定が現実に起こる可能性は極めて低い。ある国交省技官は「まともに向き合えば、とんでもない投資がいる。そんな予算があれば、苦労はしない」と冷ややかだ。
一方、人と防災未来センター長の河田恵昭(よしあき)(68)は「巨大災害を前に、求められているのは対症療法ではなく、抜本策だ」と訴える。
河田は「法律も予算配分も、政府や行政の都合ではなく、国民の生命を第一に議論すべきだ。被害が起きては法律をいじり、予算を上積みする姿勢を改めなければ、『災害先行型』の時代は続く」と憂慮し、続けた。
「問われているのは勇気だ。政府にも、国民にも、それが足りない」
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巨大地震を見据えた道路防災の基本はどこにあるのか。国交省近畿整備局(大阪市)を訪ねた。
公開資料では、本年度の道路予算約1900億円のうち、耐震補強や老朽化対策を含む維持・管理費は約300億円にすぎない。一方、近畿道紀勢線(和歌山県)や永平寺大野道路(福井県)などの高規格幹線道路網の整備は約1400億円。同局は「道路寸断に備え、別の道を確保する防災対策だ」と説明する。
9月末。震災から20年を前に、神戸市内で講演した阪神高速技術部の幹部は強調した。
「一番大事なのは想定外の地震が起きた場合、一つが駄目でも何かが補完すること。関西は高速道路網の整備が遅れている。阪神高速湾岸線の延伸を実現すべきだ」
あの震災の教訓とは、そういうことだったのだろうか。=敬称略=
(森本尚樹)
2014/10/25