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防災科学技術研究所が宮城県・築館で観測した東日本大震災の波形(上)と、阪神・淡路大震災でのJR鷹取駅の波形
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防災科学技術研究所が宮城県・築館で観測した東日本大震災の波形(上)と、阪神・淡路大震災でのJR鷹取駅の波形

防災科学技術研究所が宮城県・築館で観測した東日本大震災の波形(上)と、阪神・淡路大震災でのJR鷹取駅の波形

防災科学技術研究所が宮城県・築館で観測した東日本大震災の波形(上)と、阪神・淡路大震災でのJR鷹取駅の波形

 2011年3~4月、東京工業大教授だった川島一彦(66)は東日本大震災の被災地に入った。1978年の宮城県沖地震で被害を調査し、耐震基準改定に関わった川島は、かつて被災した橋が今回、どんな被害を受けたかを知りたかった。

 津波で桁を落とされた橋もあったが、揺れに限っては耐震補強済みの道路橋で大きな被害はなかった。「耐震性は確実に向上している」。川島はそう感じたが、要因は他にもあった。

 「地震は周期により被害が全く異なる。東日本大震災の揺れは、さほど被害をもたらさない周期だった」と川島。周期とは、震動が1回往復する時間で、一般に1~2秒での強い揺れが構造物に最も被害を与えることが分かっている。典型が阪神・淡路大震災だった。

 一方、東日本大震災での強い揺れの周期は、ほとんどの地点で0・5秒以下だった。

 東日本の1カ月後、筑波大教授の境有紀(53)は、震度7を計測した宮城県栗原市築館(つきだて)の観測点周辺を歩いた。全壊した建物は一棟もなかった。

 築館で観測された「加速度」は阪神・淡路大震災における代表的な観測点であるJR鷹取駅の4倍超。だがその周期は0・5秒以下で、体感では強く揺れても、構造物の被害は小さかった。

 境は震度6弱以上を計測した35地点の周辺を調査したが、全壊・大破は極めて少なかった。そもそも、震度は主に周期1秒以下の揺れを基に計測され、建物の被害と相関しない場合がある。

 「『震度7や6強に耐えたから、うちの家は補強しなくても大丈夫』などとは思わないでほしい」と境。補強が進む道路橋についても「東日本大震災で被害がわずかだったからと言って、安全性が実証されたことにはならない」と指摘する。

 では、近い将来に起こるとされる南海トラフ巨大地震の揺れに、現行の道路橋耐震基準は耐えられるのか。

 大阪府は13年、内閣府の推定地震動(最も被害が大きいケース)を基に、地盤別に12のゾーンで揺れの強さや周期を算出。九つのゾーンで、揺れの強さが道路橋耐震基準を上回った。うち三つのゾーンで、周期1~2秒での揺れが基準を超えていた。

 他の都道府県は、揺れや周期を算出していないが、元データでは震源域に近い四国や東海地方の推定地震動の数値は、大阪府の三つのゾーンをはるかに上回る。例えば、静岡県南西部の数値は3倍超。兵庫県でも、淡路島の大部分や播磨沿岸部は同等かそれ以上だ。

 阪神高速の技術担当者は以前、取材に「国の基準以上に何ができますか」と答えた。だが、道路橋の耐震基準は「万全」とは言えない。想定される南海トラフ巨大地震は、既に道路橋耐震基準の想定外なのだ。

 大阪の阪神高速道路本社を再び訪ねた。

=敬称略=

(森本尚樹)

2014/10/22
 

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