コウべシサイガイエンゴ 2、000
2カ月に1回、貯金通帳から2千円が引き落とされていく。
神戸市須磨区の高橋弘(77)=仮名=は、阪神・淡路大震災の被災者を対象にした災害援護資金を200万円借りた。それから20年近く。残高は175万円余。単純計算では、完済まで147年かかる。
月10万8千円の年金以外に収入はない。市営住宅の家賃は2万700円。眼科と内科の通院費もいる。テレビを手放して数年になり、近所の人との話題についていけない。
月千円の返済がやっとの暮らし。「こんなはずじゃなかった。返せると思っていたのに」
◇
震災の前年、仕事を辞めていた。あの1月17日は、新しい仕事の初出勤日だった。
アパートは全壊。あおむけのまま身動きが取れなくなった。
「動けへん」「頑張りや」。がれきの下で住民同士、励まし合った。息絶えていくのも分かった。救出されたのは36時間後。余震のたびに下がってきた天井は、顔まで5センチに迫っていた。
仮設住宅の抽選に2回外れた。2月、県営住宅を無償提供していた鳥取県に、ボストンバッグ一つで向かった。なけなしの貯金はすぐ底をつく。そんな時、神戸のアパートで隣に住んでいた男性が朗報をもたらした。
「市が350万円まで貸してくれるらしい」。飛び付いた。
連帯保証人のあてのなかった高橋は、仲介者に29万円を支払って、見ず知らずの男性に保証人になってもらった。
1年後、神戸に戻ったが仕事の拠点はなくなっていた。当時、58歳。被災者向けの雇用創出事業で仮設住宅の見回りをした。収入は月約5万円、4年後に始まった災害援護資金の返済は滞った。
「月いくらなら返せますか」
市職員と相談し、千円ずつ返済することが決まった。ただ、保証人になった男性は民事再生し、家族もいない高橋の未返済分は、いずれ焦げ付くしかない。
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兵庫県によると、災害援護資金の返済月額は平均約7500円で、最低は月500円。完済までの平均は約50年という。
体が動く限りは働くつもりだった高橋。決して裕福ではないが、貯えと年金で老後はまかなえると思っていた。しかし、あの日狂った歯車は戻らない。
「借金は自分の責任。約束通り返せないのは申し訳なく、少しずつでも返してきたが、どう考えても払いきれない」
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まとまった額を借りることができ、審査はほとんどない。「災害援護資金」は阪神・淡路大震災当時、被災者にとって唯一の公的支援だった。しかし、総額155億円もの未返済は、今も生活再建ができていない現実を映す。「借りるしかなかった」被災者と、制度の課題を追う。
=敬称略=
(高田康夫)
2014/12/23