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山中で訓練する神戸市消防局の救助隊員。過酷な現場でのストレスケアは組織の課題だ=神戸市灘区六甲山町(撮影・風斗雅博)
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山中で訓練する神戸市消防局の救助隊員。過酷な現場でのストレスケアは組織の課題だ=神戸市灘区六甲山町(撮影・風斗雅博)

山中で訓練する神戸市消防局の救助隊員。過酷な現場でのストレスケアは組織の課題だ=神戸市灘区六甲山町(撮影・風斗雅博)

山中で訓練する神戸市消防局の救助隊員。過酷な現場でのストレスケアは組織の課題だ=神戸市灘区六甲山町(撮影・風斗雅博)

 長野・岐阜県境の御嶽(おんたけ)山(さん)噴火から一夜明けた9月28日早朝。警察、消防、自衛隊の367人が山頂付近を目指した。

 長野市消防局の高度救急隊長小林秀二(43)と副隊長水崎厚史(41)も、その隊列にいた。再噴火と火山ガスの危険が常にあった。前日は移動のため、寝ていない。

 約4時間後、灰一色の山頂付近に到着した。神社の鳥居付近の灰の中から、複数のリュックサックを見つけた。近くの斜面に目を凝らすと、積もった灰が膨らんでいる場所がある。掘ると、十数人が見つかった。

 噴石を避けるためか、岩陰に張り付くように重なり合っていた。灰まみれの体に、「搬送・救命は行わない」とする黒のタグを付けた。救助は、生存者優先が原則。彼らを残し、山を下りざるを得なかった。

 水崎は、今季の救助活動最終日となった10月16日も山に登った。不明者5人の発見は果たせなかった。「ただ、悔しい。不明者の家族の心情を思うと…」と唇をかむ。

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 「絶対に助ける」という使命感と「何もできなかった」という無力感。活動で幾多の死に接する消防隊員は「惨事ストレス」にさらされる。

 課題は阪神・淡路大震災で表面化した。

 神戸市長田区菅原通の火災現場。隊員らは水勢の弱いホースを手に、じりじりと後退していた。「消防! 何やっとるんや」と罵声が飛んだ。

 機材がなく、生き埋めになった住民の救出も進まない。迫る猛火に、その場を離れるしかない。隊員の一人は、家の下敷きになった高齢女性を救えなかったことを悔い、「“菅原のおばあちゃん”のことが頭に浮かび、夜も目が覚めて思い出す」と手記につづった。

 兵庫県精神保健協会が震災13カ月後に実施したアンケートでは、被災地に勤務する消防職員の16%が「心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスクが高い」とされた。

 震災12年後の県こころのケアセンターの調査でも、震災を経験した神戸市消防職員の12%にPTSD症状がみられた。

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 阪神・淡路後、各地の消防や警察組織は心のケア専門家らによる研修を行い、予防に取り組むようになった。御嶽山噴火や8月の広島市の土砂災害では、全消防職員に調査が実施された。

 だが、長野市も広島市も、ケアをするのは市の保健師や産業医らだ。地方ではPTSD治療を担える専門家は少ない。総務省消防庁は要請に応じて「緊急時メンタルサポートチーム」を派遣するが、長期的な観察とケアの体制は十分ではない。

 兵庫県こころのケアセンター長の精神科医、加藤寛(56)は「上層部がいまだにケアの必要性を認識せず、根性論を押し通す消防組織も多い。啓発の余地がある」と指摘する。

 加藤が重視するのは救助する側への接し方だ。「忘れていけないのは、組織の内外からのねぎらい。それが大きなケアになる」と呼び掛ける。

=敬称略=

(森本尚樹)

2014/12/24
 

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