昨年7月の西日本豪雨で、兵庫を含む11府県に出た「大雨特別警報」。2013年に運用が始まり、発表基準は「数十年に1度の大雨」。災害の発生が差し迫っていることを伝える。
6日深夜の発表を受けた豊岡市は、円山川支流沿いで土のうを積んでいた消防団員らに撤収を指示した。しかし、現場を離れる団員の姿に、一部の市民から批判の声が上がった。「なぜ引き上げるんだ」「市民を置き去りにするのか」
自らの命を守る行動を取るべき状況で、屋外活動は極めて危険-。特別警報が意味する深刻さについて「市民と共有できていなかった」と、同市の垣江重人防災監は分析する。
情報は、伝わらなければ意味がない。伝わっても、理解されなければ意味がない。豪雨後、同市は中貝宗治市長を先頭に啓発活動に乗り出した。特別警報時には「市は警報と避難指示を周知し、消防団は現場から撤収。市民は建物の2階以上に退避する。いずれも屋外活動は厳禁」。地域ごとに全ての自治会長が集まる会合などで説いて回る。
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庁舎がつぶれるような激しい揺れだった。直後、茨城県沿岸に大津波警報が発令された。
11年3月11日の東日本大震災。同県大洗町の小谷隆亮町長は、2階の町長室から見える港の様子に「ただ事では済まない」と確信した。海底が見えるほどの引き波に、港の作業船がさらわれていた。
消防長に連絡し、防災行政無線の文案を指示。屋外スピーカーや家庭の受信機を通じ、約1万7千人の住民に消防士の声が届く。
「緊急避難命令!」「大至急、高台に避難せよ!」
同町の消防マニュアルは「です・ます調」で統一され、行政用語としても「命令」はあり得ない。だが、推敲(すいこう)を重ねつつ、強い口調を貫いた。最大4メートル、5回の津波が押し寄せ、町域の1割近くが浸水したが、一人の死者も出なかった。
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速報性に優れるとされる放送の分野でも、伝え方の工夫が生まれている。
「2時間22分」。14年に赤穂市付近へ上陸した台風11号で、自治体の避難情報を受けてから、関西の民放テレビ各社が放送するまでの時間差だ。自治体への確認、入力作業が速報性を奪っていた。加えて、表示時間の短さ、「○市の一部地域」という表記の分かりにくさ…。課題は多い。
朝日放送(大阪市)は、特別警報や避難情報が発令された地域のテレビにだけ、情報を表示させるシステムを開発し、17年春から運用を始めた。
総務省の災害情報共有システム(Lアラート)を、データ放送に直結し、視聴者がテレビ設置時に登録した居住地の郵便番号をもとに発信する。表示情報は、リモコンを操作しなければ消えない。
情報の正誤を精査しないことに報道機関として迷いもあった。だが、ニュースデスクの木戸崇之さん(46)は力説する。「まずは情報を出す。命を守るためなら、何よりも優先すべきだ」
(田中陽一、竹本拓也、黒川裕生)
2019/1/15