地震の被害がなくても「一斉に避難しろ」と国が呼び掛けることになりそうだ。しかも「1週間程度」。30年以内の発生確率が70~80%とされる南海トラフ巨大地震の「臨時情報」が出た場合の防災対策だ。
「過去の地震を参考にしても、これから地震がどう起きるのかなど分からない。科学的な根拠もない」
昨年11月、神戸市内であった自治体職員対象の防災研修会で、河田恵昭・人と防災未来センター長は痛烈な批判を展開した。
臨時情報は2017年から気象庁が運用を始めた。南海トラフの想定震源域で、前震や地殻変動などの異常現象を確認できた場合、住民に警戒を促す。予知できない巨大地震を短期的に予測することを目指す。
運用が始まって約1年後の昨年12月、国の中央防災会議がようやく、臨時情報の防災対応策をまとめた。30分以内に30センチ以上の津波が来る沿岸自治体の住民に政府が一斉避難を求め、被害がない地域でも本震に備え「事前避難」を呼び掛ける。「1週間程度の警戒」が必要とし、その間は避難所生活の可能性がある。
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その1週間、どうなるのか。企業は、学校は、交通・ライフラインは…。広範な社会、経済活動への影響について、国はまだ明確な対応策を示していない。
「この広さで、生活環境を保てるだろうか」
昨年12月に神戸市東灘区の東灘小学校で行われた避難所の開設・運営訓練。畳1畳より少し広いぐらいのスペースを見ながら、東灘小学校防災福祉コミュニティの岸本昌市会長(74)がつぶやいた。
2・1平方メートル。避難所の滞在者1人当たりに必要な最低限の面積を指し、兵庫県が避難所運営指針で定めている。目安の数字で、国や自治体ごとに違うが、おおむね1・65~3平方メートル程度が示される。一時的な避難ならまだしも、1週間暮らすとなれば手狭だ。
実際の避難生活をイメージできるよう体育館を2平方メートルごとに区切ると、「横になるのが精いっぱい」との声が口々に上がった。
最大約36万9千人。兵庫県が、南海トラフ巨大地震で見積もる浸水想定区域の昼間人口だ。この数が浸水エリア外の避難所に殺到し、避難生活を1週間続けたら-。現実の事態となる日はそう遠くない。
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南海トラフ巨大地震では、国で最大32万人、兵庫県でも2万9千人が亡くなるとされる。津波は淡路島を含む県内15市町に押し寄せ、最高水位は南あわじ市の8・1メートル、最短到達時間は44分と見込まれている。
昨年11月上旬、県内15市町で避難訓練があった。高台や避難場所への経路を歩いて確認する訓練には、約7万8千人が参加。障害者がパニックを起こして動けなくなるなど、数々の課題があぶり出された。
「大地震は突然起きる」。河田氏は強調する。臨時情報が当てになるとは限らず、避難行動から避難所へ、局面が変わるごとに想定外の難題が浮かぶ。「日常的に災害への備えを意識することが最も大切だ」(金 旻革、太中麻美)
2019/1/20