正平調

時計2020/10/29

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やっともらった役は酒屋の店員だった。せりふは一つだけ。「こんにちは。今日は注文、ありませんか」。それだけ言って引き下がる。しかしなんとか客を笑わせたくて策を練った◆本番。下がるとき、わざと転んだ。そして一言、「傑作やなあ」。客席はドッと沸いた。やったやった、と楽屋へ戻ると、先輩がカンカンだ。「どこにそんなせりふがあるんじゃ。お前は笑わさんでもええんや」◆ひたすら謝りながら、思った。「いまにみとれ。俺も堂々とお客さんを笑わせられるようになったる」。上方お笑い界を描く難波利三著「笑いで天下を取った男」の一場面、西川きよしさんの新人時代である◆「いまにみとれ」は、横山やすしさんとの出会いで花開く。2人の掛け合いは何度聞いても笑った。あの切れ味、テンポ。「20世紀最高の漫才」と呼ぶ人までいる。漫才界初の文化功労者、というのもうなずける◆「東京の芸人さんは売れるとすぐ文化人になる」という声がある。でも上方は…と話は続く。なるほど西川さんを見れば分かる。この世界の大御所で元参院議員、といっても偉そうにしない。腰は低い。今も酒屋の店員役だったころと同じように、どうすれば笑ってもらえるかを懸命に考える◆滴るこの味、いつまでも。2020・10・29

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