立ち食いそばのうまい条件を作家の中島らもさんが書いていた。吹きっさらしの中であること。汁が熱いこと。値が安いこと。もうそれだけで十分だと(「ポケットが一杯だった頃」)◆うどんも同じだろう。兵庫県香美町にある今や希少なうどん自動販売機の話題を本紙地域版で読んだ。国道9号沿いに40年以上前からあり、300円を入れると関西風だしのきつねうどんが30秒弱でできあがる◆故障で停止し修理費65万円の工面に悩んだが、クラウドファンディングで資金を募ると「ぜひ直して」と2週間足らずで全国各地から75万円が寄せられたそう。おかげで再開した自販機うどんは“人情”の味付けもきかせて、さぞかしうまいに違いない◆人情といえば、作家の吉村昭さんに愛媛県のうどん屋の話をつづった文章がある。朝だけ営業していて、早くから牛乳配達員や出勤前のサラリーマンらが訪れるその店に看板やのれんはない(「味を追う旅」)◆母娘らしき2人が忙しく働く中、自ら調理場に立つ客もいる。値はとびきり安い。うどんのように太く長く、地域の人たちをつないできた-いわばそんな店なのだろう◆湯気立つどんぶりをすする。熱いだしがのどからしみて冷えた体を温める。うどんにひかれる季節である。2020・12・4








