宇宙からの帰還といえば、いまからちょうど50年前の米宇宙船アポロ13号が思い出される。酸素タンクが爆発するなどの遭難危機を乗り越え、3人の乗組員が大気圏への突入に挑んだ◆祝福用のシャンパンが留守宅に用意され、夫人はにらむように空を見上げた…という挿話が、そのときの家族の心情をすべて言い尽くしているように思う。やがて訪れた歓喜のほどは、当事者にしか分からない◆おおむね順調だとは言われながら、探査機「はやぶさ2」の関係者がこれまでに何度、空を仰いだかしれない。探査機から分離されたカプセルがオーストラリアの夜空に美しい光跡を描いて、地球に舞い戻った◆「百点満点で1万点」とはJAXAの計画責任者、津田雄一さんの談である。その人にも眠れない夜があったのだろうと想像したら、会見で見せた喜びのガッツポーズに胸がじんと熱くなった。思わず拍手する◆カプセルはきのう、日本に帰ってきた。中に入っているとみられる小惑星りゅうぐうの砂には生命誕生の秘密があるやもしれぬという。宇宙からの大事な“手紙”を地球に届け、はやぶさ2はまた次の旅に出る◆お相伴にあずかり、勝手に用意したお祝いのワインといこうかな。暗い世相を明るく照らした君にカンパイ。2020・12・9
