サッカーのJリーグ発足時、有名な論争が起きた。プロスポーツは「地域密着型」か「企業型」かを巡り、サッカーとプロ野球界の“ドン”が巻き起こした「川淵・渡辺論争」である◆チームの名前から企業名を外す方針を示した川淵三郎チェアマンに対し、読売巨人軍の球団会長などを歴任した渡辺恒雄さんが「Jリーグの理念は空疎」とかみついた◆確かに、企業の広告塔としての意味合いが強かった当時のスポーツ界で、Jリーグの掲げた理想は現実離れしていると感じたものだ。だが今や、バスケットボールやバレー、ラグビーも「地域密着」で追随する◆10チームで始まったJリーグは41都道府県の60チームに増えた。チームの呼称も「地域名+愛称」と定める。香川県がホームタウンのJ3カマタマーレ讃岐は、地元名物の釜玉うどんが由来だし、ヴィッセル神戸は「勝利(ビクトリー)」と港をイメージした「船(ヴェッセル)」の造語である◆名は体を表すというが、川淵さんも「あの論争があったからJリーグの理念が世間に広まった。今は感謝の気持ちしかない」と語っている◆バブル景気の直後に始まったJリーグはきのう、発足から30年を迎えた。縮む経済のあおりで経営難のクラブも多い。今こそ本領発揮を。2023・5・16
