小学校を中退し、独学で動植物や鉱物などを調べる「博物学」に没頭。植物を採取しては記録に残した◆その経歴を聞けば、放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデル、植物学者の牧野富太郎を思い浮かべるかもしれない。明治期の西播磨にもそんな人物がいた。たつの市新宮町篠首で生涯を過ごし、牧野とも親しく交流した在野の研究者、大上宇市(おおうえういち)(1865~1941年)である◆1日40キロも歩いて播磨内外の動植物を採集し、図鑑を写して研究を進めた大上。江戸時代の記録にあるが実物が見つからず、当時「幻の木」とされた「コヤスノキ」を地元の山で発見する。標本を受け取った牧野が1900年に新種として発表した◆たつの市龍野町の霞城(かじょう)館では6月4日まで、大上の業績や牧野との交流ぶりを紹介する企画展が開かれている。植物標本を求める牧野からの手紙やはがきなどが並ぶ◆36年5月4日付の神戸新聞は大上が近く学会から表彰されると伝える。「播磨における植物研究の草分け」。当時の県博物学会長による賛辞が、彼の功績を物語る◆記事の見出しには「“博士より偉い”と隣人初めて吃驚(びっくり)」とある。幻の木と知られざる地域の偉人。ドラマ放映を機に、その存在にも光が当たればいい。2023・5・30
