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直売所に展示する写真パネルを前に、鳥インフルエンザからの日々を振り返る北坂勝社長=淡路市育波
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直売所に展示する写真パネルを前に、鳥インフルエンザからの日々を振り返る北坂勝社長=淡路市育波
インフルエンザの殺処分で、鶏がいなくなった鶏舎=淡路市育波(2020年11月、北坂さん撮影)
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インフルエンザの殺処分で、鶏がいなくなった鶏舎=淡路市育波(2020年11月、北坂さん撮影)
防護服姿で殺処分を進める関係者=淡路市育波(20年11月、北坂さん撮影)
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防護服姿で殺処分を進める関係者=淡路市育波(20年11月、北坂さん撮影)
自動販売機での販売を再開した卵=淡路市育波(21年4月、横山さん撮影)
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自動販売機での販売を再開した卵=淡路市育波(21年4月、横山さん撮影)
鶏が戻った鶏舎=淡路市育波(21月11月、横山さん撮影)
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鶏が戻った鶏舎=淡路市育波(21月11月、横山さん撮影)

 淡路島西岸の海風が吹く高台に、存続の危機をくぐり抜けた「北坂養鶏場」(兵庫県淡路市育波)はある。

 純国産の鶏が産む新鮮な卵と、その卵を割らずに中を攪拌して作る「たまごまるごとプリン」で知られる。近くの直売所には連日、神戸や大阪から客が訪れる。父から受け継いだ2代目の北坂勝社長(48)がファンを増やした。

 2020年11月、従業員約40人を抱えたこの養鶏場が、高病原性鳥インフルエンザに見舞われた。兵庫県内の養鶏場で初の感染確認だった。飼育していた全ての鶏約14万5千羽が殺処分された。

 それから1年3カ月。取材に答える北坂さんの穏やかな笑顔の奥には、廃業も頭をよぎった葛藤の日々と、応援の声を力にした再起の道のりがあった。(上田勇紀)

■「陽性です」。言葉を失った

 鳥インフルエンザ禍は突然やってきた。20年11月25日朝、北坂さんは、養鶏場にいた従業員から電話を受けた。「1カ所にまとまって鶏が死んでいます」

 数は十数羽。珍しいことではない。様子を見ようかと思ったが、20日前に香川県で国内養鶏場として約3年ぶりに鳥インフルエンザの感染が確認されていた。「念のために」。県淡路家畜保健衛生所に連絡した。

 職員が到着し、簡易検査の結果に耳を疑う。「陽性です」。言葉を失った。「そこから先は、悪い夢を見ているようだった」

 PCR検査でも陽性が判明した。夕方には養鶏場に殺処分や消毒資材が運び込まれ、防護服に身を包んだ多数の県職員らが作業を始めた。夜遅くには、家畜伝染病予防法に基づき、全ての鶏の殺処分が始まった。

■「もう、養鶏を辞めた方がええんかな」

 作業を見守り、一睡もできずに夜が明けた。「淡路で鳥インフル 県内養鶏場初の確認」。26日付の神戸新聞朝刊は1面トップで大きく報じた。県の派遣要請を受けた陸上自衛隊の車列を目にした。「大変なことになった」。何が何だか分からないまま、取引先への謝罪や連絡に追われた。

 20年春に始まった新型コロナウイルスの感染拡大が長引き、ただでさえ飲食関連の産業は厳しい状況に直面していた。

 家畜伝染病を加えた二重苦となった。誹謗や中傷も覚悟した。従業員は辞めていくと思った。「もう、養鶏を辞めた方がええんかな」。発生から数日は、そんな思いが頭をよぎったという。

■なじみ客から応援メッセージ

 精神的にも経営上でも苦しい日々の中で、なじみ客から「頑張れよ」「応援してるよ」とメッセージが届いた。心配してお見舞いを持ってきてくれる人がいた。養鶏場をけなす声は寄せられず、従業員も残った。「続けていこう」。そう前を向けた。

 鳥インフルエンザは渡り鳥がウイルスを運び、感染した野鳥のふんや、ふんなどを介して感染した小動物から広がるとされる。養鶏を営む事業者は鶏の殺処分のほか、風評被害の懸念もあるため対策に神経をとがらせるが、21年11月には姫路市の養鶏場でも感染が判明するなど国内各地で確認が相次ぐ。同業者からは「気を付けていても防ぎきれない」と不安の声も聞かれ、兵庫県担当者も「詳細な感染ルートの特定は難しいケースがある」と話す。

 北坂養鶏場は、衛生所の指導のもと、消毒や防鳥ネットなどの対策を強化し、飼育再開に向けて少しずつ動き出した。

■10万羽まで回復。手探り続く

 21年2月、試験的に鶏90羽を鶏舎に入れることができた。4月には鶏舎の一部で正式に飼育できるようになり、別の業者に頼んで育ててもらっていた鶏約2万4千羽を移した。同月下旬、約5カ月ぶりに直売所や島内の自動販売機などで卵の販売を再開した。

 6月にはひな約2万4千羽を入れ、従来の飼育方法だった自家育成を取り戻した。その後も定期的に数を増やし、今では約10万羽を育てている。

 順調に再建が進んだように見えるが、鳥インフル禍で卵を供給できず、そのまま途絶えてしまった取引ルートも多いという。「生産の規模を縮小して、何とかやっている状況。まだまだ元には戻っていない」と北坂さん。手探りの日々は続いている。

■記録写真を直売所に展示

 直売所には今、鳥インフルエンザに見舞われた直後から再起までの日々を写した写真パネル約20枚が展示されている。従業員で写真家の横山佳奈恵さん(33)をはじめ、まちづくり活動を通じてつながる芸術家らの支援プロジェクトだ。専用のロゴマークやグッズを作り、養鶏場応援の輪を島内外に広げている。

 「販売できない時に『卵ないんや』と残念そうに帰ったお客さんがいた。多くの人たちに心配を掛けた。写真の展示や取材を通して、前を向いて再開していることを伝えたくて」。北坂さんはしみじみ語る。

 4月には新入社員が入ってくる。「鳥インフルがあっても、この養鶏場にあこがれて来てくれる。やりがいがあって、誇りを持てる仕事だと教えていきたい」。厳しい現実をプラスにとらえ、新たな夢を描く。

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