3年余りの旧民主党政権を経て、自民党は2012年12月の衆院選で与党に返り咲いた。次第に定着した「1強多弱」「安倍1強」と呼ばれる政治状況。強引な政権運営は時に猛烈な批判を浴びたが、国政選挙では完勝が続く。歴代最長もにらむ長期政権は、社会を映す鏡でもある。(田中陽一、段 貴則)
今年1月、兵庫県内の大学に勤める男性教授の研究室に、はがきと封書が相次ぎ届いた。
「非国民」「わずかな人生を悔いなく過ごせ」
理由はすぐに分かった。その少し前、沖縄・辺野古への米軍普天間飛行場移設問題を巡り、反対運動のリーダーが逮捕・長期拘束されたのは不当だとし、即時釈放を求める声明を識者有志で発表していた。
差出人には、それぞれ別の団体名などが記されていた。実在するかどうかは分からない。見えぬ相手に不気味さを感じつつ、言論を封殺するかのような内容に強い憤りを覚えた。
国民の知る権利を侵害する恐れのある特定秘密保護法(13年12月)、集団的自衛権行使を認める安全保障関連法(15年9月)、犯罪を計画段階で取り締まる“共謀罪”法(17年6月)。いずれも慎重論や異論が噴出したが、安倍政権は数の力で強引に成立させた。
「安保法制反対、憲法堅持という主張は現実軽視と非難され、それでも声を上げれば脅迫や暴力で封じても構わない。そんな発想がまん延している」。教授はそこに、異論を許さない偏狭な社会をみる。
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衆院の解散風が強まった先月23日。野党共闘を目指す西宮市内の集会で、一人の学生がマイクを握った。
「私利私欲の解散をすれば負けるんだと、与党に分からせないといけない」
関西学院大大学院に通う大野至さん(25)。2年前の15年、安保関連法反対を掲げて京阪神の大学生らが結成した団体「シールズ関西」のメンバーだった。
運動は全国に広がり、10万人超が国会周辺を取り囲んだこともある。それでも安保法は成立した。
「ここまでやってダメなら、もう何をすれば…」。仲間からはそんな声も漏れた。市民運動は一時の勢いを失ったように見える。シールズ関西も昨年夏の参院選後に解散した。
しかし、悲観はしていない。当時のメンバーとは今も連絡を取り合う。「根は確実に広がった。それぞれの生活のステージで、できることをやるしかない」と大野さん。共闘集会ではこうも呼び掛けた。
「投票に行ってください。よりましな選択をあきらめないことが大切です」
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一方で、安倍晋三首相が衆院解散の一因に挙げた北朝鮮情勢は緊迫の度を増す。
核開発にミサイル発射実験、米国への挑発。エスカレートする現状に、神戸市出身の北朝鮮拉致被害者、有本恵子さん=失踪当時(23)=の父明弘さん=同市長田区=は「昔の北朝鮮とは違う。日本は有事や」と語気を強める。
もう89歳。拉致問題は停滞するが、「今は安倍首相しかおれへん」。祈るように期待をつなぐ。
【安倍1強】第1次安倍内閣(2006年9月~07年9月)は短命だったが、12年12月に自民党が政権に復帰し、第2次安倍内閣が発足。13年7月には参院選に圧勝して衆参のねじれを解消し、14年衆院選、16年参院選と勝利を重ねた。第1次を含めると、首相の在職日数は佐藤栄作氏、吉田茂氏に次いで戦後3位。来年9月の党総裁選で3選を果たせば任期は21年9月まで延び、戦前の桂太郎氏(2886日)も超えて歴代最長となる可能性もある。
=おわり=