公示後初の週末となった14日、神戸市北区の神戸電鉄岡場駅前で、兵庫2区の公明前職、赤羽一嘉(59)と並んだ首相安倍晋三が力を込めた。
「自公で連携し『本物の希望』ある日本をつくる」
「政権選択」を意識し、2区に候補者のいない希望の党への批判も目立つ。
千人を超える聴衆の大半は公明支援者。1999年から続く自公連立政権の緊密ぶりを示す光景だが、一つ欠けたものがあった。両党の選挙協力の下、従来2区で赤羽を支援してきた同市兵庫、北、長田区の自民の県議、市議たちの姿だ。
「今回は2区の応援はしない。自民の支部で決めた」と市議の一人は明かす。原因は、公明が24年ぶりに単独候補を立て自民と競合した昨夏の参院選。「公明がそう出るなら」と擁立を見送ってきた2区で「自民候補を立てるべし」との動きが加速した。突然の解散で断念したが、別の市議は「公明に協力しても支援者を侵食されるだけ。地方選で公明と競う地方議員にメリットはない」と漏らす。
8選を狙う赤羽陣営には別の不安要素もある。「1票の格差」是正による区割り変更だ。兵庫7区だった西宮市北部(有権者約3万7千人)が2区に編入され、新人さながら朝の駅立ちで知名度アップを図る。
同市北部は無党派層が多いとされ、共産新人の平松順子(68)は護憲を前面に反与党票に照準を定める。民進出身で希望の公認から漏れた無所属新人の船川治郎(50)は「政治腐敗の刷新」「世代交代」をアピールする。
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区割りの余波は、県土面積の約4割、10市町が選挙区の兵庫5区にも及ぶ。
6区から編入された川西市北部の能勢電鉄畦野駅前。マイクを握る自民前職谷公一(65)の前を、ベビーカーを押す女性が目もくれず素通りする。農相だった父・洋一を継いで5選し、但馬や丹波での圧倒的な知名度が通用しない。川西での出陣式では、自民の支援者から「谷さんってどの人?」との声も聞かれた。
新たな有権者は約2万7千人。同じくニュータウンを抱える三田市、猪名川町を合わせると5区全体の約4割を占める約15万人に上り、都市部対策が勝敗を左右する。
前回、比例単独に回った希望元職、梶原康弘(61)も苦心する。谷とは5度目の対決。「当選2回、篠山の出身です」。自己紹介が川西の空に吸い込まれる。共産新人西中孝男(68)は、党地区役員を務める川西はなじみの地域。「改憲反対は5区で私だけ」と他候補との違いを強調する。
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人口の偏在化や地域課題の多様化は、都市部でも変わらない。
「子育て世代や若者が減った」と話すのは兵庫3区の自民前職、関芳弘(52)の陣営幹部。神戸市須磨、垂水区はベッドタウンとして発展してきたが、このうち須磨区は3年前、民間団体「日本創成会議」が発表した「消滅可能性都市」に神戸で唯一挙げられた。ニュータウンの「オールドタウン化」が要因だ。
地域経済も疲弊する。地元商店街に国の支援制度をPRしてきた関だが、党の事務所は再開発ビルの空きテナント。経済振興策の予算付けを実績としてアピールするが「特効薬がない」と難しさもにじませる。
民進から希望に移り、労組の支援を受ける新人横畑和幸(45)陣営の課題の一つは「組織の高齢化」(連合兵庫幹部)。かつて組合員を多数擁する重点区だった様相は消えて久しい。
公示直前に公認が決まった維新新人の松木秀一郎(33)は「骨をうずめる覚悟」と地元への熱意を強調。共産新人の冨士谷香恵子(65)は長年、中小企業支援に携わった経験を基に「消費税増税中止」の訴えに力を注ぐ。=敬称略=
(衆院選取材班)