13日午後、兵庫県尼崎市のJR立花駅前。兵庫8区の共産前職堀内照文(てるふみ)(44)がマイクを握ったのは、立憲民主党の選挙カーの上だった。
「市民と野党の共闘で安倍政権を退場に追い込む」
新社会や緑の党の地元市議らも並び立ち、堀内の手を取り、空へ大きく掲げた。
前回衆院選(2014年)に初当選した比例近畿から、選挙区にくら替えした堀内。社民を含む各党の県組織のほか、安保法制廃止を目指す市民団体の支援を受け「統一候補」を前面に押し出す。
土台となったのが、共産の全国的な「野党共闘」路線だ。兵庫では今回、県内12選挙区のうち立憲民主が立った6区と、新社会が無所属で候補を立てた9区で共産が擁立を取り下げ、支援に回った。一方で、全国で唯一、公共一騎打ちの構図となった8区を「必勝区」の一つに位置付け、野党の結集を呼び掛ける。
8区は1996年の小選挙区制導入以降、公明党幹事長や国土交通相を務めた冬柴鉄三が議席を保ち続けた、いわば公明の「牙城」だ。旧民主のブームに沸いた09年こそ敗れたものの、その後は、中野洋昌(ひろまさ)(39)が連続して当選。前回も共産候補は約3万4千票差をつけられた。だが、堀内陣営は「野党の力が集まれば勝負できる」とみる。
ただ、急ごしらえの連帯にはもろさも垣間見える。
公示日の10日、阪神尼崎駅前。共産書記局長の小池晃が発した「比例は共産党と書いて」の一言に、他党関係者が頬を引きつらせた。比例票の底上げのため、尼崎を度々離れて近畿各地を回る堀内の動きも相まって、「結局、共産を利するだけ」「われわれは下請けじゃない」といった声も漏れる。
「連立政権の代表、中野を勝たせてほしい」
15日、JR尼崎駅前。公明代表の山口那津男は共産批判を抑え、自公の蜜月ぶりのアピールに時間を割いた。
公明側が懸念するのが、6月の尼崎市議選で自民との間に生じた亀裂だ。公明は組織力を生かし、前回より3人多い12人を立て全員当選。一方で自民系も議席増を狙ったが、ベテランを含む6人が議席を失った。公明が従来より積み増した票数は、自民系の6人が減らした票数の合計とほぼ一致する。
「公明が増やさなければ、はじき飛ばされることはなかった」。自民関係者の間には今も恨み節が残る。
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「官房副長官の名に恥じない圧倒的な得票で国会に送り出す」
兵庫9区で6選を目指す自民前職、西村康稔(やすとし)(55)の陣営幹部が意気込む。
西村は、自民が下野した09年選挙でも最多得票を更新するなど確固たる地盤を誇り、党総裁選に名乗りを上げたことも。小泉政権で官房副長官を務めた首相安倍晋三から「経験を積んでほしい」と促され、9月の日米首脳会談にも同席した。西村自身も出陣式では「将来の日本を担うリーダーの一人として自覚を持ち全力で戦う」と強調した。
だが公示後1週間で、完全に地元での運動に充てたのは1日だけ。朝の駅立ち以外は、党の若手や激戦区の応援で各地を飛び回る。
余裕ともとれる自民の戦いぶりの裏には、野党の伸び悩みもある。希望新人の川戸康嗣(やすし)(42)は、民進の大阪18区候補だったが、維新との「すみ分け」で公示6日前に国替えが決まった。9区に地縁はない上、代表小池百合子の「排除」発言による党の失速も重なり、手探りが続く。
新社会の県書記長で無所属新人の菊地憲之(のりゆき)(61)は淡路島に事務所を開設できないなど「足場が弱く、十分な態勢を取れていない」。擁立を取り下げた共産の元県議らが共に立ち「野党共闘」候補を演出し、政権批判票の取り込みを急ぐ。
与党の牙城は揺るがないのか。2日後に審判が下る。(敬称略)
=おわり=
(衆院選取材班)