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 2026年のノーベル化学賞に、東京理科大名誉教授の硤合憲三(そあいけんそう)さんら2人が選ばれた。生命の起源に迫る手がかりとなる「不斉(ふせい)自己触媒反応」という化学反応を発見したことが評価された。受賞の決定を心から祝福したい。

 日本からの受賞は、24年平和賞の日本原水爆被害者団体協議会(被団協)、25年生理学・医学賞の坂口志文(しもん)さん、化学賞の北川進さんに続き3年連続となる。化学賞は10人目。日本における基礎研究の水準の高さを改めて証明したと言える。

 硤合さんは広島県の生まれで、東京大理学部で有機化学の門をたたいた。米国の大学での研究を経て、1981年に東京理科大の講師となった。その後35年以上、同大学で地道に研究に取り組んできた。

 アミノ酸や糖類などの化合物には、鏡に映した右手と左手のように重ね合わせられない立体構造を持つものがある。人工的につくると「右手型」と「左手型」の両方がほぼ同量ずつになるが、生体の場合は大半が一方の型だけでできている。なぜそうした偏りが生じるのか、長年にわたる謎だった。

 硤合さんは、右手型か左手型のうちわずかに多い方が自己を複製して増える不斉自己触媒反応を実験で解明し、95年に発表した。今では「硤合反応」と呼ばれる。

 特筆すべきは、この発見が安全な医薬品の開発に道を開く可能性を示した点だ。どちらかの型を選んで医薬品をつくることができれば、副作用の抑制が期待できる。医薬品などには一方の型に治療効果があり、もう一方が有毒になることがあるためだ。60年代に社会問題化したサリドマイド薬害は、効果がない型の物質が混入し、副作用を引き起こしたとされる。

 硤合さんは東京理科大での会見で「謎を完全に解明できたわけじゃない。まだ分からない面白いことがあるはず」と研究への変わらぬ意欲を示し、若手研究者たちにもエールを送った。

 近年、懸念されているのが日本の研究力の低下である。約20年前まで注目度の高い論文数は主要国のうち米英独に次ぐ4位だったが、最近では4年連続で13位と低迷している。

 背景には、すぐに役立つ研究を優先して国が科学研究費助成事業(科研費)を配分してきたことがある。文部科学省は2027年度予算の概算要求で科研費として26年度比でほぼ倍の4552億円を計上し挽回を狙うが、基礎研究は成果が出るまで時間がかかる。

 国は目先の成果ばかりに目を奪われず、長期的な視点で研究環境を整えるべきだ。