2畳ほどの狭い空間に、網付きマイクが1本と、事務用椅子が1脚。周囲はカーテンで仕切られている。
2013年にオープンした尼崎市のカラオケ店「ソロ」。名前の通り、お一人さま専用だ。通称「ヒトカラ」。この10年で急速に広がり、業界大手の調査では20代の3割が「ヒトカラ経験者」という。
昨年末、仕事帰りにソロに寄った芦屋市の田中愛理(えり)さん(24)は洋楽ばかり5曲ほど歌った。友人らともカラオケに行くが、選ぶのは「周りに合わせて」AKB48など日本の歌。数カ月に1度は、ヒトカラで歌いたい曲だけを熱唱する。
「誰かに聞いてもらわなくてもいい。音楽そのものを楽しみたい」
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「2次会の締めは、全員が肩を組んで歌うのが定番だったけどなあ」。本紙特別編集委員の林芳樹(66)は、かつての社会部(現報道部)時代を振り返りつつ、昭和と平成の違いをこう表現する。
昭和には皆が知っている歌があり、平成には「それぞれの歌」がある-。高度成長を遂げた昭和は「国民が目標を共有していたから、歌のアンテナも一緒だった」。不透明感が増した平成は、共感できる歌が分散したのだろうか。
この意見に深くうなずくのは、JR神戸駅前で30年以上、カラオケラウンジ「ライラック」を営む林光子(つやこ)さん。御年、古希と少し。「開店当時は知っている曲が流れると、お客さんが一緒に歌うこともあってね。阪神・淡路大震災の後かなあ。それがめっきり減ったのは」としみじみ言う。
「新曲が出るサイクルも早くなったかしら」と光子さん。日本レコード協会に確かめると、平成が始まった1989年に発売されたポップスや演歌の新譜CDは計4100タイトル。2016年は、2倍近い7749タイトルに上った。
美空ひばりや山口百恵など、昭和には大ヒット曲を誇るスターがいた。平成を通じて活動し、16年末に解散したSMAP(スマップ)は、老若男女が支持する最後の「国民的アイドル」といえるかもしれない。
初期からのファンという神戸市中央区の辰己喜代子さんは、もうすぐ90歳。知人の誘いでコンサートに行き、すっかりハマッた。中でも「中居君」が大のひいき。自室の壁は大量のポスターで埋まる。
今は、一ファンとして中居君を追っかけている。
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遠ざかりゆく昭和。だが、往年の楽しみ方はどっこい生き残っている。
ギターを片手に酒場を巡り、弾き語りを披露する「流し」。姫路の繁華街を根城にするみっちゃん(55)は、3年前から活動する。
スナックが減り苦しいと思いきや、居酒屋などの需要が「そこそこある」。20代の若者からリクエストが入ることも。中島みゆき、BEGIN(ビギン)-。酔いも手伝い、客も歌って盛り上がる。「歌の楽しさに時代の違いはない」
同じころ、ライラックでは本紙報道部の篠原拓真(25)が、中森明菜の名曲を歌いだした。女性スタッフもマイクを握る。生まれる前の曲だが「親が口ずさんでいたから覚えた」。
昭和と平成、その次の時代も、世代をつなぐ歌はきっとある。(田中陽一、小西隆久、勝浦美香)
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