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安楽死の実施を迷った女性患者の話をするバート・マイマンさん=アムステルダム
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安楽死の実施を迷った女性患者の話をするバート・マイマンさん=アムステルダム

安楽死の実施を迷った女性患者の話をするバート・マイマンさん=アムステルダム

安楽死の実施を迷った女性患者の話をするバート・マイマンさん=アムステルダム

 タクシーに乗り、高速道路でオランダの首都アムステルダムの郊外へ向かう。遠くに見えていた高層ビルが立ち並ぶ地域に近づいている。

 人通りの多い住宅街に着く。私たちがビル1階の診療所の扉を開くと、医師のバート・マイマンさん(64)がにこやかに迎えてくれた。

 バートさんは10年ほど前、この診療所を立ち上げた。5人の医師が働き、地域に住む約6千人の家庭医を担う。

 バートさんがパソコンの前に座り、話し始める。「年に3、4人は安楽死をします」

 実施を迷ったことはあったのだろうか。私たちの問いに「難しかったのは認知症の患者です」と答え、ある女性の死について語りだした。

     ◇     ◇

 女性は2017年1月に71歳で亡くなった。それまでの2年間で、認知症の症状が少しずつ進行していた。

 「病気で頭の中が混乱していると分かっていました。症状は良くならず、本人は『これ以上、苦しみたくない』と言って安楽死を望みました」

 バートさんは踏み切ることにためらっていた。女性はまだ体を動かせる。自分自身が誰かも理解できている。

 けれども、介護は一緒に暮らす夫に頼っていた。身だしなみが乱れ、行動に異変が出ているように見えた。

 「私は最終的に、彼女が尊厳を失っている状態だと判断しました。安楽死は、彼女を苦しみから助けることにつながると信じたのです」

 女性が死を望む気持ちは最期までぶれなかった。「私は薬を入れる瞬間に、本人の意思を必ず確認します」。バートさんが力を込める。「だから、認知症の症状が重い人にはできないと考えています」

     ◇     ◇

 オランダで安楽死が合法化されて約20年、今では最期の選択肢の一つとして定着していると言える。18年に亡くなった約15万3千人のうち、4%が安楽死を選んでいる。

 今年の4月下旬には、最高裁が判断能力を失った認知症患者への安楽死を認める判決を出し、取り組みはさらに広がると思われる。

 バートさんが言った。「人は死ぬことよりも、死へ向かうまでの苦しみに怖さがあるのではないでしょうか。安楽死が決まると、その苦しみや怖さが薄れ、安心感が得られるのだと思います」

 死を受け入れ、最期の時間を穏やかに過ごす。そういうことなのだろうか。

2020/5/4
 

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