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夫の死を振り返る奥本美紀さん
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夫の死を振り返る奥本美紀さん

夫の死を振り返る奥本美紀さん

夫の死を振り返る奥本美紀さん

 オランダと台湾で、安楽死や終末期の延命治療の取り組みを取材し、帰国した私たちの元に読者の女性からメールが届いた。これまでの連載の感想と、自身の体験がつづられていた。

 送り主は、播磨地方に住む50代の奥本美紀さん=仮名。5歳上の夫ががんで、10年以上闘病していた。

 しかし…。「私の夫は2年前、自ら逝ってしまいました。後悔で自分を責める日々でした」。何度かのやりとりを経て、話を聞かせてもらうことになった。

 3月下旬、ホテルの喫茶室で初めて顔を合わせる。左手の薬指に指輪が光る。奥本さんがゆっくりと話し始める。

 「主人は体が弱ってくると『もう、自分で死にたい』と言いました。私は『それだけはやめてよ』と伝えていたのですが…」

 夫は医師による自殺ほう助が認められているスイスに行きたい、とも口にしていた。そして2年前の3月、車の中で練炭を使い、命を絶った。

 奥本さん夫婦には20代と30代の子どもが3人いる。夫にがんが見つかったのは、末っ子が中学校に入った年だった。すぐに手術をしたものの、5年ほどたって転移が告げられる。

 「明らかに落ち込んでいました。後で知ったのですが、その頃、家族に向けて『頑張れよ』って映像を残していました」

 夫は会社を経営していたが、2017年の夏に事業から手を引いた。従業員には退職してもらった。

 症状は次第に悪化し、食欲がなくなっていく。がんが喉のリンパに広がり、声がかすれるようになった。夫婦で相談し、夫の希望通り、自宅で最期を迎えようと決めた。

 18年3月、入院先の病院で外泊の許可を得て自宅に戻る。「あの日は、地元の開業医に往診に来てもらえるかを聞く予定でした」。奥本さんが声を落とす。

 「でも、起きたら隣の部屋で寝ていた主人の姿がなかったんです」。息子と一緒に外へ、捜しに出る。家から少し離れた場所に車があった。中をのぞくと、夫は運転席でぐったりしていた。

 「自分で死にたい、とは言ってましたが、まさか実行してしまうとは…。そこまでの状態だとも気付きませんでした」

2020/5/13
 

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