阪神・淡路大震災の記憶と教訓を次の世代に伝えるため、神戸市と神戸新聞社が共同で2014年夏に立ち上げた「117KOBEぼうさいマスタープロジェクト」。活動を担う「ぼうさい委員会」のメンバーである県内の大学生たちがこのほど、1泊2日の日程で宮城県石巻市と女川町を視察し、津波の爪痕が残る被災地を肌で感じた。
参加したのは兵庫県立大や神戸学院大、関西学院大、神戸女子大など兵庫県内の大学生11人。社会防災学科をはじめ、看護学や教育学、都市政策など専攻はさまざまだが、いずれの学生も専攻に合わせた「防災」を学んでおり、今回の視察でも「多くを吸収したい」と積極的に集まった。
石巻市は3500人以上が亡くなり、4万棟を超える家屋が被害を受けた。女川町は津波による犠牲者率が最大となった町。それぞれ東日本大震災の被災地の中でも、最も被害の大きかった地域で、学生らは小型バスで石巻市と女川町へ。復興中のまちを見て、避難路を体験し、被災漁師の話を聞き、地元大学生と交流した。
石巻市の中心市街地にある「ピースボートセンターいしのまき」は、地震発生当初から支援を続けてきた「ピースボート災害ボランティアセンター」の東北での拠点だ。学生らは職員からボランティアの現状などを聞いた。
直後の泥かきやがれき撤去などは終わり、同センターは現在、市内にある仮設住宅133団地約6千戸に向けて月2回、入居者に役立つ情報を載せた「仮設きずな新聞」を発行するほか、養殖漁師の作業を手伝う約1週間の滞在型プロジェクトを推進している。
参加するボランティアは一軒一軒新聞を手渡しで配り、お年寄りらの話を聞いて回ることで、入居者の癒やしや安否確認の役にも立っているという。滞在型の養殖支援では、1週間という長期で住民とボランティアの付き合いが深まるために、帰った後も交流が続くケースが多いことなどが紹介された。
学生からは「なぜ新聞を使ったのか」「仮設訪問の際に気を付けていることは」「どこまでボランティアが必要で、どこから不必要になるのか、その線引きは」などと活発な質問が相次いだ。
▼被災地を歩いて
松本さん「まず現地に行くべき」、田中さん「実感を防災に生かす」
学生らは傷跡の残る被災地も歩いた。地震直後に多くの住民が避難した日和山(石巻市門脇町)では、高台からさら地になった市内を一望した。
建築物がなくなったままの海岸一帯に、声をなくす11人。海岸沿いには「がんばろう!石巻」の看板が立つ。学生らは看板横の献花台の前で静かに手を合わせ、住民が避難した道を歩いて日和山の頂上へ登った。
初めて石巻を訪れた神戸学院大の松本龍さん(4年)は「防災社会貢献ユニット所属なので、津波に浸食された地域の地図は見たことはありますが、現場を目にするとあまりにも広い。理論を学ぶことも大切ですが、まずは現地に行くべきだと痛感した」と話す。社会防災学科専攻の田中瞳さん(2年)は「献花台の隣に、津波が来た6・9メートルの高さを示すポールが立ててあった。見上げるほどの高さを前にして、圧倒された。自分が学ぶ防災に、この感覚を取り入れないと意味がないと思いました」と話し、肌で感じ取ることの大切さを実感していた。
▼語り部・相澤さんに出会って
「震災前より良くなろう」
石巻市街地の東部に位置する渡波(わたのは)では、ノリ漁師、相澤充さんを訪ねた。
震災では工場全損の被害を受けた相澤さんは、津波のことを伝えようとボランティアで語り部も務めている。ノリ養殖のシーズン最中で工場は忙しく稼働していたが、学生たちにノリ加工の工程を紹介し、被災体験を話してくれた。
震災前には「きつくてつらい仕事」だったノリ養殖を、今は「喜びを感じている」と話す相澤さん。震災直後は工場を畳むことさえ考えたが、世話になったボランティアに、残っていたノリで作った太巻きを食べてもらった時に「ノリを通して人とつながれることを感じた」という。
借金して機械を再び購入し、養殖を再開。現在は卸売りのほか、消費者への直接販売も手掛けるようにもなった。発送する全ての商品に手紙を入れる。「中には手紙を返してくれる人もいるし、石巻まで遊びに来てくれる人もいる。本当に励みになる。震災前と同じではだめ。震災をきっかけに前より良くなろうと頑張っています」と学生らに力強く語りかけた。
学生らは2日目、社屋と輪転機が浸水したため手書きの「号外」壁新聞で生活情報などを伝えた「石巻日日新聞」の新聞博物館「石巻ニューゼ」(石巻市中央)を見学。当時報道部長だった武内宏之館長から、被災地でいま起きている問題を聞き、地元の石巻専修大学の学生たちと意見交換会をした。
終了後、県立大看護学部の松本美久さん(2年)は「被災地を見て、言葉にならない衝撃を受けました。複雑な思いもあるけれど、震災のことを面と向かって真っすぐに話してくれる多くの人と出会えて本当によかった」と振り返った。
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