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830人の無念 被災地発 問わずにいられない

(9)孤独死危険群 アルコール依存 潜在化
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 この冬、神戸市北区長尾町の北神戸第六仮設住宅(三百七十戸)は幾度も粉雪が舞った。震災一年がすぎた一月二十四日。やせ細った男性の遺体が、こたつに入ったままの姿で発見された。死後一週間。エアコンがつけっぱなしの室内には焼酎(しょうちゅう)の瓶が散乱。アルコールの飲み過ぎによる肝硬変が原因だった。生前、自治会の役員に「家がつぶれ、仕事を失った。妻も死んだ」と酒を飲む理由を話していた。四十四歳の働き盛りだった。

 兵庫県警は一月十二日、仮設住宅での孤独死を四十九人と発表した。その内訳は高齢者と壮年層に大別される。

 (1)一人暮らし
 (2)食事をせずに飲酒
 (3)近隣とコミュニケーションを持たない
 (4)高齢や障害で日常生活の自立が困難
 (5)疾病の急激な悪化
 (6)慢性疾患の治療中断。

 神戸市西区の西神第一と第七の仮設住宅(計千七百二十一戸)内にある診療所「クリニック希望」の伊佐秀夫所長(45)は、六項目のチェックポイントを作った。

 「あてはまるものが多いほど孤独死危険群」と指摘する。

 二千九百十四戸の仮設住宅を抱える芦屋市。孤独死はまだ一例もない。

 「風邪をひき、まだ完治していないとのこと。しかし元気そうにあいさつして下さいました」。芦屋ハートフル福祉公社の二十七人のホームヘルパーは、昨年六月から仮設に住む体の弱い高齢者二百世帯を対象に安否確認をしている。

 「一週間に一度は顔を見てくれと指示している」と佐藤稔・同公社事務局長。会えなくても電話を入れ、接触を図る。顔なじみになり、訪問を楽しみに待ってくれる人も出てきた。

 シーサイドタウン内にある高浜町十番の仮設住宅自治会(小泉清会長、七百六十四戸)は、ふれあいセンターをフル活用する。カラオケや体操教室などを開催。ボランティアとともに、クリスマス、もちつき大会などセンターへ寄ってもらえる工夫を凝らす。人とのつながりがカギを握る。

 高齢者の孤独死は予想され、対策は早くから取られてきた。が、半数を占める壮年はノーマーク。その多くはアルコールが関係する。行政はどれだけの「危険群」がいるのか、把握すらできていない。

 なぜか。アルコール依存は、自身をそう思っていないし、自覚していても隠そうとする。プライバシー面から、十分な調査もできない。深く潜在化する。

 十二人の保健婦で、仮設内の独居高齢者千人を担当する神戸市の北保健所。冒頭の男性のことはつかんでいない。能村博保健課長は「アルコール依存者対策をどうしたらいいか悩んでいる」と漏らした。

 神戸市の精療クリニック(小林和院長)の「震災ストレスほっとライン24時間」には、今も相談が相次ぐ。「半壊して転居以来、深酒になった」「職がなく、毎日飲酒してしまう」。アルコールに傾斜していく被災者の叫びがある。

 クリニック希望が、昨年末までに四十六人を入院させたが、アルコール性肝障害がトップで十人を占めた。このほかアルコール依存症患者が十二人。受診していないが、依存症と思われる五人を把握している。「今はまだ氷山の一角。家がない。職がない。金がない。根本が解決されないと状況は変わらない。仮設がある限り、この問題は続く」と伊佐所長は予測する。

 今月九日。神戸市西区の仮設住宅で、六十二歳の男性が肝硬変で死んでいるのが見つかった。孤独死の数字は五十六を刻んだ。

1996/2/15

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