1学期、1年の教室がざわついた。
「うわ、ショック」
兵庫県立舞子高校(神戸市垂水区)環境防災科。数学の小テストで、40人のうち20人以上が赤点で再テストを課されたのだ。
「環防(カンボー)」と略される同科は、防災授業がぎっしり。生徒たちは国数英などの科目が少しばかり苦手だ。
一方で、3年間クラス替えのない結束は固く、気心の知れた同士ゆえの独特の雰囲気が漂う。クールな人間関係に慣れた普通科生からすれば「ちょっと暑苦しい」。でも、「ちょっとうらやましい」
確かに彼らの思いは熱い。姫路市内から1時間半かけて通う民谷(たみや)美友斗(みゆと)(1年)。小学6年の時に起こった東日本大震災に震えた。
もし、姫路で大災害が起こったら…。周りの大人に尋ねてみても頼りない。「何かあった時に後悔だけはしたくない」と入学を決めた。
被災者から話を聞く機会も多い授業は「期待以上」。人命救助の仕事に携わりたいという目標ができた。体力に自信はないけど。
◇
ある日の教室。
「小中学校の防災教育を充実させ、地域の防災力アップにつなげられないか」。生徒たちが模造紙を掲げ、順に自分の考えを述べていく。
授業はとにかく発表に次ぐ発表だ。意見をグループごとにまとめ「発表」。行事があれば終わるやいなや1人ずつ感想を「発表」。繰り返すうち、人前で話すことに慣れていく。
学びの場は教室にとどまらない。災害時には住民同士のつながりが生きるとの考えから、地域の防災訓練やイベント運営にも積極的に携わる。
7月の夏休み初日。1~3年の有志約30人が高校近くの多聞南小学校に集結した。恒例の夏祭りの準備だ。
「手、空いてる人いるー?」
輪の中心に大西莉加(3年)がいた。防災学習やボランティアに全力投球してきた環防の“顔”。てきぱきと指示を出しながら机や椅子を並べ、機材を押して校庭を走る。
「この子らがおらんと祭りできへんわ。この地域、年寄りばっかりやもん」。自治会役員の渋谷智恵美(59)がほほ笑む。「ほんま、ようやってくれる」
3年間で身に付けるのは、偏差値では測れないあふれるほどの知恵と力。これが彼らの武器になる。
=敬称略=
(黒川裕生)
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カリキュラム 卒業に必要な単位の3分の1が専門科目。「アクティブ防災」「自然環境と防災」などの科目があり、1年では、阪神・淡路大震災を経験したさまざまな分野の外部講師を招く「災害と人間」に力を入れる。
2014/9/2