「ねえ、部活動とか考えてる?」
昨年4月の入学式。寺尾莉子(2年)は、上級生2人に突然声を掛けられた。
2人は兵庫県立舞子高校環境防災科(環防(カンボー))の先輩で生徒会のメンバー。寺尾が中学時代に生徒会活動をしていたことを聞きつけ、引き入れに来たのだ。
誘われるまま生徒会室に入り浸るようになった寺尾は現在、生徒会長を務める。先代も環防の成尾春輝(3年)。寺尾を勧誘した張本人である。
笑顔の似合うひょろりとした成尾は、自他共に認める「いじられ役」。いつも、場の空気を柔らかくする。
1年の3月には福島県飯舘村などを訪問。原発や原爆に関心を寄せるようになり、今は広島大を目指し受験勉強に打ち込む。
2002年、同高に環防が開設されると次第に生徒会の役割を担うようになり、今もメンバー29人の過半数を占める。「人前で話すことやボランティアに慣れているので、生徒会にも抵抗のない人が多い」と寺尾は笑う。
もちろん、誰もが積極的なわけではない。
「みんなしっかりしてるなあと思う」。級友をまぶしそうに見るのは、秋宗華香(あきむねかこ)(3年)。部活で忙しくしているうちに、ボランティアに参加する機会を逸してしまった。
でも、国際交流には興味がある。環防には国際協力機構(JICA)をはじめ海外からの視察も多い。6月には、韓国の大学教授らを出迎え「チョウムベッケスムニダ(初めまして)」。教室で存在感を示し、うれしそうな笑顔を見せた。
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「公立高に入るには、推薦入試の環防しか選択肢がなかった」とうそぶく9期生の向井陸久(りく)(19)は、神戸学院大の2年生。防災に一切関心がなく、授業態度も反抗的だった。
「いずれ学校をやめるのでは」。科長の和田茂教諭(55)はひそかに危ぶんでいた。
そんな向井を級友や教諭は支え続けた。2年の時、発表を褒められ自信をつけてからは、東北支援にも力を入れるようになった。
大学進学後も勉強に励み、昨秋には学生の合格率10%前後という宅建の資格を取った。
「環防があちこちで活躍しているのを聞くと、よし自分も、という気になる」
防災を学ぶだけじゃない。防災で学ぶことも多い。生徒たちは成長を遂げ、社会に飛び出す。
=敬称略=
(黒川裕生)
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【課外活動】 豊岡市や兵庫県佐用町、新潟、東北など被災地ボランティアはこれまで10カ所、延べ32回実施している。祭りや防災訓練など地域行事にも参加。国際協力機構(JICA)や国内外の学校との交流も幅広い。
2014/9/4