「そーっとね、そーっと」
小学生の男の子が、くっついた2枚の写真の端を持ち、水に漬けた。現れたのは子どもたちが楽器を手に並ぶ姿。「幼稚園の音楽会かな?」
8月初め、阪神・淡路大震災の教訓を発信する「人と防災未来センター」(神戸市中央区)で、東日本大震災の津波で傷んだ写真を修復するワークショップが開かれた。
手ほどきするのは、同センター震災資料専門員の岸本くるみ(27)=同市兵庫区。男の子はアンケートに書いた。「自分にもできることがあるんだなと思いました」
岸本はその言葉に自分の思いを重ねた。
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「防災科1期生、中米へ」
5年前、神戸学院大学4年の岸本は新聞紙面を飾った。
兵庫県立舞子高校(同市垂水区)環境防災科(環防(カンボー))1期生の中でも目立つ存在。高校、大学と被災地支援や防災活動に明け暮れ、大学卒業後、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊として、エルサルバドルへ防災支援に向かった。
つまずいたのは、現地に着いて間もないころだった。
突然、襲う下痢や発熱。何も食べられない。医師は「悪いところは見つからない」。訳が分からず、7カ月で帰国。スーツケースには、スペイン語に訳した自作の「防災紙芝居」が入ったまま。悔し涙があふれた。
帰国後も体調は戻らない。「摂食障害」と診断された。原因を絞るのは難しかった。ただ、主治医に指摘された。
「被災地や被災者に触れることは災害を疑似体験しているようなもの。負担になることもあるよ」
環防入学以来、突っ走ってきた自分自身を少し休ませた。
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岸本は小学2年で、阪神・淡路を経験している。通っていた小学校に救援物資の鉛筆が届いた。知らない人からの善意。「誰に感謝していいのか分からない」。ありがたさより戸惑いを覚えた。
小さな疑問は、環防の教室で解けていった。住宅の耐震化、ハザードマップ、訓練。学ぶたびに「守り合う社会」の大切さが理解できるようになった。
「防災とは『いつか、誰かのために』という発想から生まれる。今は無理せず、できることをしたい」
「1・17」を伝える4万点の資料を背に、静かに語った。
=敬称略=
(宮本万里子)
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【海外支援】 希望者を対象に、発展途上国の支援を現地で学ぶネパール研修を実施。海外支援に関心を持つ生徒も多い。JICAの青年海外協力隊や、大学の留学制度で途上国へボランティアに行く卒業生もいる。
2014/9/5