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特徴的なドーナツ形の浴槽でくつろぐ常連客=淡路市岩屋(撮影・荻野俊太郎)
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特徴的なドーナツ形の浴槽でくつろぐ常連客=淡路市岩屋(撮影・荻野俊太郎)
アーチ形の入り口。左側にあるのが立ち飲み屋「ふろやのよこっちょ」=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)
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アーチ形の入り口。左側にあるのが立ち飲み屋「ふろやのよこっちょ」=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)
番台に座って常連客と談笑する船橋富美子さん=淡路市岩屋 (撮影・中村有沙)
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番台に座って常連客と談笑する船橋富美子さん=淡路市岩屋 (撮影・中村有沙)
2年前まではこの入り口から男女で分かれていた=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)
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2年前まではこの入り口から男女で分かれていた=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)
男女共用になったロビー。Tシャツや土産などの商品が並ぶ=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)
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男女共用になったロビー。Tシャツや土産などの商品が並ぶ=淡路市岩屋(撮影・中村有沙)

 のれんをくぐると、エコーがかかったようなにぎやかな声が聞こえてきた。明石海峡大橋のたもとに位置する漁師町・兵庫県淡路市岩屋の銭湯「扇湯(おうぎゆ)」。昭和レトロなたたずまいが目を引く。一時は廃業の危機に陥ったが、愛好家らの応援を得て再出発した。新たな個性を発揮しつつある憩いの場の一日を追った。(中村有沙)

■昔ながらの熱めの湯

 一日はお昼に始まる。午後1時半過ぎ、3代目主人の船橋富美子さん(66)が準備に取りかかる。

 デッキブラシで浴場の床を丁寧に磨く。一段落するとボイラー室へ。風呂の温度を調整する。「昔の銭湯のイメージ通り熱め。大きいお風呂で少し熱い湯に漬かるのが醍醐味(だいごみ)」と笑う。

 夫の祖父がここを開いた。詳しい創業年は分からないが、瓦屋根の建物の正面に洋風装飾を施したいわゆる「看板建築」であることから、昭和初期には開業していたと推測される。

 特徴的なのはドーナツ形の浴槽だ。外側にタイルが敷かれ、腰かけられる段差がある。汲んだ湯で体を流したり、のぼせたら湯から出て座って一休みしたり。湯船の中と外にいる人や、並んで座る人らが自然と顔を見ながら話せる。

■顔見て「今日も元気やな」

 午後3時半、開店。続々と常連客がやって来て、番台に入場料や入浴券を置いていく。

 早速、女湯から楽しそうな話し声が響いた。いつも同じ時間に来るという4人がお喋りしていた。

 「背中流したるわ」。ドーナツ形浴槽の一番外側に座って背中を洗い合う。「ああ、気持ちいい」。昨日見たテレビ番組の話、今晩のおかず。会話は尽きない。

 「いつも同じ時間に来る仲間。本当は5人だけど、今日はうめちゃんがいない。どうしたんかな」と同市の女性(84)。「皆の顔見て、今日も元気やなって思うのが日常」

 浴室から歌声が聞こえてくる日もある。

■愛好家が応援隊

 船橋さんは岩屋の出身。結婚後、扇湯を切り盛りしていた夫の母から番台の仕事を教わった。現在は男女共用のロビー式だが、当時は入り口から男女に分かれていた。番台からは両方の脱衣所が見えた。「最初は恥ずかしくて座れなかった」と懐かしそうに振り返る。

 約5年前、銭湯の核であるボイラーの一部が故障した。「完全に壊れたら廃業」とそれ以前から決めていた。

 流れを変えたのは、銭湯関連の著作があり、扇湯に通う編集者の松本康治さん(60)=神戸市垂水区。「なくなるのはつらい。岩屋のためにも残したい」と修理に詳しい人を紹介し、営業継続へ背中を押した。

 さらに「常連客だけでは成り立たない。いちげんさんを取り込む工夫を」と活性化に尽力。銭湯愛好家らが応援団体を結成してPRに取り組み、船橋さんの代わりに番台にも座った。

 2021年には、応援団体を「島風呂隊」と名付けて一般社団法人化し、大幅リニューアルに協力。入り口を男女共用のロビー式にし、土産などを置いた。浴室にそれまでなかったシャワーと水風呂も整備。松本さんは「利用しやすく設備を整えることで、新たな集客につながれば」と期待する。

■風呂上がりの1杯

 午後6時を過ぎると、客の出入りが少し落ち着いてきた。扇湯から出て隣を見ると「ふろやのよこっちょ」というのれんがあった。

 リニューアルに合わせ、島風呂隊が開業した立ち飲み屋だ。土日や祝日はメンバーらが順番に営業し、チャレンジショップとしても活用。この日は扇湯ファンの佐々木俊行さん(49)が店を開けていた。出店する日は扇湯の掃除などを手伝う。

 わざわざ滋賀県から月1~2回扇湯に通い、風呂上がりの1杯を楽しむ男性客もいる。佐々木さんは「風呂に入って、1杯飲んでまた入る。そんなこともできる場所」と話した。

 近年、観光スポットの増加や自転車のアワイチ人気で、扇湯も島外客が増えてきた。船橋さんは出会いを喜ぶ一方、地元の人にもっと利用してほしいと願う。「若い人に来てもらい、大きな湯で皆でぬくもる体験をしてほしい。元気なうちは番台に座り続けたい」

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