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特区制度をきっかけに再生した棚田に目を細める高階博さん。「課題は継続した取り組み」と話す=養父市能座
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特区制度をきっかけに再生した棚田に目を細める高階博さん。「課題は継続した取り組み」と話す=養父市能座

 「異次元の施策に取り組む」-。勇ましい掛け声とともに、安倍政権が2014年にスタートさせた「地方創生」。東京一極集中と地方の人口減に歯止めをかけるのが狙いだが、現場を歩くとその成果はまだら模様を描く。

 秋風が吹き始めた山あいの斜面に、稲刈りを終えたばかりの棚田が連なる。養父市南部の能座地区。農会長の高階博さん(68)は「だいぶ軌道に乗ってきた」と明るい表情を見せる。

 棚田がよみがえったのは15年春。農家の高齢化に後継者不足が重なり、地区内の田んぼ約14ヘクタールは半分以上が休耕田になっていた。「もう、山に戻すしかないか」。住民にもあきらめムードが漂っていた。

 再生のきっかけは、安倍政権が14年に本格化させた国家戦略特区だった。地域限定で規制を緩和する同特区は「地方創生」の一環にも位置付けられ、全国の第1弾に選ばれた養父市では、農業に挑戦する企業に大幅な特例が認められた。

 現在、参入は13社。このうち三木市の建築資材販売会社が住民と立ち上げた「アムナック」は、能座地区を中心に休耕田の地主約50人から借り受けるなどした約8ヘクタールで酒米を育てる。収穫した米は隣の朝来市にある酒造会社で日本酒に。今夏には初の販売に加え、海外輸出にも道筋を付けた。

 活発な動きは波及効果も生んだ。長らく途絶えていた地元消防団が復活したのだ。「年寄りばかりだけど」と高階さんは笑いつつ、「地域を守る機運が芽生えた。次は移り住んでくれる人が増えるのを期待したい」と将来を見据える。

 養父市によると、特区指定前の13年度に22件だった「空き家バンク」の利用希望が、16年度は3倍の65件にまで増えた。全国でも数少ない成功例の一つだ。

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 兵庫県内唯一の政令指定都市・神戸でも今後、人口減少は加速する。

 1970年代、新婚夫婦に人気だったニュータウンを多く抱える同市須磨区。40年には20~30代の女性が10年の半分の約1万人にまで減り、人口全体も約16万7千人から4万人減る-。民間団体が14年に発表した「消滅可能性都市」に、市内で唯一挙げられた。

 「住むからには団地全体を暮らしやすくする覚悟で移ってきた」。開発から40年以上たつ高倉台団地で、夫と長男の3人で暮らす自営業の女性(41)はそう話す。15年に購入した一室のリノベーション(改修)過程を全て公開し、入居後も月に1度は自宅を開放している。

 団地住民や改修に興味を持つ人が集い、古い建物の生かし方などを学び合う。市の外郭団体ともタッグを組み、団地と地域の活性化へ模索を続ける。

 地方創生をうたい、自治体が繰り広げる“移住者争奪合戦”に違和感を持つ女性。「まずは住民同士で暮らしやすさを高め、子どもたちに残したい街にする、という思いが大切」と力を込める。

 減り続けるパイの奪い合いだけでは、いずれ行き詰まるのは明らかだ。(田中陽一、段 貴則)

【地方創生】人口減少の克服や地域経済の活性化を目指し、安倍晋三首相は2014年9月の内閣改造で担当相を任命。省庁横断で推進するため「まち・ひと・しごと創生本部」も立ち上げた。全国の自治体は子育て支援や移住促進、雇用創出などに向け、具体的な施策や数値目標を盛り込んだ総合戦略を策定。市町村などが柔軟に活用できる新型交付金も導入された。東京一極集中是正のため、政府関係機関の地方移転も取り組みの一環に挙がるが、動きは鈍い。

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