2014年秋、安倍政権は「すべての女性が輝く社会」を政策目標に掲げた。16年4月には大企業に女性の積極採用や昇進を促す「女性活躍推進法」が施行された。少子高齢化の加速で生産年齢人口が減る中、女性の就業環境整備は喫緊の課題といえる。
「頭がおかしくなってしまいそうだった」
神戸市内で暮らす主婦(42)は苦しそうな表情で語り始めた。
大学卒業後、貿易会社に就職。営業事務を担当した。私生活では32歳の時に結婚。不妊治療を経て、38歳で長女を授かった。母親に育児を助けてもらい、キャリアアップを目指す-。描いていた将来のプランだ。
だが、出産直前、60代の母親が軽度の認知症を発症した。育児休暇を終え職場復帰したが、同居を始めた母親と娘の世話に追われ、起床は毎朝4時半、就寝は午前0時を回った。2年前、家族で話し合い、退職を決めた。
「仕事を続けたかったけど心と体が持たなかった。親の介護の問題が生じるのは、もっと先のことだと思っていた」。主婦は今も、仕事への未練を捨てきれていないという。
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各企業で取り組みは進んでいる。例えば、みなと銀行(神戸市中央区)。同法に基づく行動計画を策定し、昨年5月、優良企業として国から「えるぼし」認定を受けた。
男性優位の業界で、10年ほど前から女性活用を積極的に推進。当初は、来店者の過半数を占める女性向けのサービス向上などが狙いだった。
専門チームが延べ約1900人の女性行員らと面談を重ね、現場の声を施策に反映。育児や介護の制度拡充などを実現し、女性の管理職比率は2割に達した。
現在は女性全体のキャリアアップや若者支援にも取り組む。担当者は「子育て世代だけでなく、独身女性や男性もサポートは必要。多様な働き方に応じた支援を目指す」と胸を張る。
だが、企業努力だけでは限界も出てきた。
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女性の晩婚化と出産年齢上昇が、育児と親の介護が重なる「ダブルケア」の問題を顕在化させている。
内閣府による16年の調査では、未就学児の育児と介護を同時に行っていた人は25万人。第一生命経済研究所の調査では35歳以上で出産した女性の半数以上がダブルケアを経験し、ソニー生命の調査では経験者(男女)の約3割が離職を余儀なくされていた。主婦もそのうちの一人だ。
今回の衆院選で、各党は競うように子育て支援策を打ち出す。一向に解消されない「待機児童」対策が分かりやすい例だが、現実の問題は既に新たな局面に差し掛かっている。
「活躍したいのに活躍できない。そんな女性は多いはず。待機児童問題だけでなく、幅広い視点で支援策を考えてほしい」。主婦の切実な願いだ。(末永陽子)
【女性活躍推進法】2016年4月施行。従業員301人以上の企業に、女性活躍に関する数値目標や行動計画の策定などを義務づける。中小企業は努力義務にとどまる。今年6月末時点で行動計画の策定・届け出をしたのは全国で1万5881社(届け出率は99・5%)、中小は3112社。優良企業を「えるぼし」企業として認定する制度もあり、兵庫県内では11社が選ばれている。認定されると「えるぼしマーク」を商品や求人票に利用できる。