薄氷を踏む勝利だった。21日に投開票された参院選。兵庫選挙区(改選数3)は連立政権を担う自民と公明が「自公協力」を頼りに互いに新人を立て、いずれも議席は得たが、立憲民主新人の猛追を許した。「忖度(そんたく)」「1強」など6年半に及ぶ長期政権の負の印象に加え、老後資金2千万円問題への批判が足を引っ張った格好だ。全国でも自民、公明で改選過半数を得たが、自民は改選議席数を下回った。一方で、混戦を抜け出した維新も合わせれば、兵庫の改憲勢力は2016年の前回参院選に続き、3議席を独占した。
保守票を奪い合う混戦の末、初当選した自民新人の加田裕之氏(49)。元防災担当相、鴻池祥肇(よしただ)氏(昨年12月死去)の「後継」を強調し、自民の議席を守ったが、3番手に甘んじた。「皆さんのおかげです」。当選の知らせにうっすら涙を浮かべた。
構図は3年前の参院選と同じ。「友党」の公明が独自候補を擁立し、自民の支持基盤である業界団体にも支援を求めた。陣営の危機感は強く、最後まで組織を引き締め続けた。
高い知名度を誇った鴻池氏の引退表明を受け、異例の選考会で候補に決まったのは1年前。選挙戦に入ると「後継」を前面に打ち出し、4期16年務めた県議の実績を訴えた。
有権者の多い都市部を重点的に回る他の候補に対し、農村部でも頻繁に演説会を開催。「兵庫をくまなく回り、課題をどの候補より知っている」と強調し、各地の県議も一丸となって票を掘り起こした。
政権批判の逆風にもさらされた。消費税増税や老後資金2千万円問題に対しては「責任政党として財源を手当し、少子高齢化に対応していく」と丁寧に繰り返した。
序盤は優勢が伝えられたが、手応えはつかめなかった。自民票の一部が公明や維新へ流れる中、無党派層への浸透も図ったが、支持は広がりを欠いた。
多くの支援者らが駆けつけた神戸市の事務所。硬い表情で現れた加田氏は「待たせてしまって本当に申し訳ない」「私の力不足で票が伸びなかった」と反省の弁。その上で「順位は3番でも仕事では1番を目指す」と決意を新たにした。(末永陽子)