リングサイドで試合を見守る安河内剛・JBC本部事務局長(左)
リングサイドで試合を見守る安河内剛・JBC本部事務局長(左)

 日本ボクシングコミッション(JBC)で本部事務局長を務める安河内剛(64)は、早大法学部在学中にジムに通ってプロライセンスを取得した。しかし、そのまま審判の道に入り、一度も選手として試合のリングには立たなかった。

 「僕には度胸がなかった。だからリングに上がる人たちを本当に尊敬しているんです」。ボクシング界に身を投じて40年以上、競技の土台を支えてきた。安河内は死亡事故がなかった直近10年を「毎年とにかくこの1年を乗り切ろうと思ってやってきた」と振り返る。

 国際団体の試合役員として世界を飛び回る中で感じるのは、「日本は良くも悪くも異質」という独特のプロ意識だ。海外選手は軽いけがや体調不良でも迷わず棄権する。しかし、日本選手は「目が見えなくなっても、あごが折れて口が開かなくなっても、どんなにフラフラになっても言わない、あきらめない」。その理由の一つが、ボクシングが本格的に広まった大正時代から続くジム制度だと考える。

 選手がマネジャーやプロモーター、トレーナーと個別契約する欧米と違い、日本では基本的にそれらの機能が所属ジムに集約される。興行やマッチメークの苦労も共有する。ジム内での「絆」が選手を支え、育てる。一方で、選手はそれに応えようと、プロとしての商品である自らの肉体を傷つけることも辞さない。

 「ジム経営はどこも厳しい。金のためなら会長さんもジムはやらないでしょう。でも、夢のためにやっている。選手はそれを知っているから、命懸けになる。負けられないという思いが苛烈になる」。そこに、見逃せないリスクが内在する。=敬称略=(船曳陽子)