石破茂首相とトランプ米大統領が初めて会談した。日米同盟をインド太平洋地域の平和、安全、繁栄の礎であり続けると強調し、同盟の抑止力と対処力を高めることで一致した。

 「米国第一」を掲げ、同盟関係ですらディール(取引)の材料とみなすトランプ氏の出方が読めなかっただけに、日本政府関係者はひとまず胸をなで下ろしたに違いない。

 ただ、こうした「日本重視」は、中国を最大の脅威と位置づけるトランプ政権の対中抑止策の一環でもある。

 会談後の共同記者会見で、トランプ氏は日本の防衛費について「(今後)さらに増える」と述べた。米中の覇権争いは一層の激化が予想される。米国による防衛費の増額要求が高まるのは確実で、日本は難しい対応を迫られよう。

 会談はなごやかな雰囲気だったという。日本が用意した「土産」が奏功した面もありそうだ。石破首相は対米投資を1兆ドル(約151兆円)規模に増やすと表明したほか、日本の自動車メーカーによる米国での新工場建設計画を紹介した。

 一方、トランプ氏は対日貿易赤字の解消を求め、貿易不均衡が続けば、関税が選択肢になるとの見解を示した。同盟国でも貿易赤字を問題視するトランプ氏が、高関税を課す可能性のある相手国リストから日本を除外するとは考えにくい。

 既に中国との間では関税合戦の様相だ。世界経済を縮小させ、インフレなどで自国民にも影響が及びかねない高関税の連鎖を防ぐために、日本は欧州連合(EU)などとも連携して米国に働きかける必要がある。

 驚いたのは、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を巡り、両首脳が「買収ではなく、多額の投資で合意した」と述べた点である。買収に反対していたトランプ氏自ら日本製鉄の幹部と協議するという。真意は不明だが、民間企業の経営に政治が介入することへの違和感は拭えない。

 会談では、日米豪印や日米韓といった多国間連携を重視する方針も打ち出した。国際協調の枠組みの実効性を高め、平和に資するためにも、日本は主体的な外交に努めるべきだ。