「ケルベロス商店街」とも呼ばれるアーケードの入り口=尼崎市建家町
「ケルベロス商店街」とも呼ばれるアーケードの入り口=尼崎市建家町

 「三和に行けば何でもそろう」。尼崎市の阪神電鉄出屋敷駅近くの商店街は、そんな決まり文句で住民から親しまれてきた。複数の商店街が連なり、敗戦直後の闇市時代は食材を求めて買い物客でごった返した。昭和の香りを色濃く残したアーケードを歩き、まちの歴史と今をたどった。(池田大介)

 駅から東へ10分ほど歩くと、三つのアーケードの入り口が並ぶ。ギリシャ神話に登場する三つの頭を持つケルベロスにちなみ、インターネット上では「ケルベロス商店街」と呼ばれる。

 最古は1936年にできた三和市場。3人で協力して建てられたことから「三和」と名付けられた。地名ではないが、その名は地域に浸透した。戦後の闇市から派生した市場も「新三和サンロード商店街」と「三和本通商店街」となった。

 三和市場のアーケードに入ると、シャッターの閉じた店が連なり、さびれた雰囲気が漂う。独特の空間からコスプレーヤーが撮影に訪れ、ドラマの撮影が行われることも多い。薄暗い通りを抜けると、異彩を放つ店と出くわした。「なのはな船団」。アニメ雑誌や漫画、怪獣ソフビ、特撮映画のポスターを販売するサブカル系の雑貨店だ。

 店長の山田りささん(28)は元々、市場のオリジナル怪獣「ガサキング」の「追っかけ」をしていた。市場を盛り上げるために誕生したマスコットで、山田さんはイベントに参加するうちに運営スタッフに加わり、いつしか「中の人」に。22年には空き店舗を借りて、同店を開業した。

 「稼ぎはほぼゼロですが、にぎやかしのために開けています」と山田さん。「お客さんが市場やガサキングに興味を持ってもらえたらそれでいいかな」と話す。

    ◇    ◇    

 工都・尼崎のソウルフードと言えば、ホルモン焼き。昭和の時代は、店先で労働者が立ち食いしながら仕事への英気を養った。今でも三和には「軒先ホルモン」を提供する店が複数あり、風に乗って香ばしい香りが漂ってくる。

 豚肉専門の精肉店「栄屋」では、闇市時代から変わらぬ味のホルモンを提供している。終戦直後に沖縄県出身者が開業し、現在は遠縁に当たる店主の大城徳幸さん(75)が親族らとともに店を切り盛りする。

 100グラム250円で、注文が入ると鉄板の上で煮込んだ腸や肺をコテですくって小皿に盛る。店頭には定番のバラやカルビから珍しい心臓、子袋まで並び、市外から訪れる客も多い。

 昨年11月には隣接する物置を改装し、長男の純平さん(34)がランチ限定の飲食店「おとなり」を開いた。栄屋の肉を使ったトンテキ定食(1300円)やトンカツ定食(同)、ソーキそば定食(同)を食べることができる。

 栄屋の肉のおいしさを知ってもらうためにオープンし、食材はいずれも商店街で手に入れた「三和産」。肉そのもののうまみを生かした調理が特徴で、食後に肉を購入する客もいる。

 純平さんは「閉じる店が増えているからこそ、いろんな人が来てくれて商店街のにぎわいにつながるような店にしたい」と思いを語った。