静岡県の一家4人殺害事件で死刑判決を受けた袴田巌さんは、裁判をやり直す再審で無罪が確定するまで58年を要し、長い拘禁生活で精神をむしばまれた。再審制度の見直しに向け法制審議会(法相の諮問機関)の部会が議論を進めるが、冤罪(えんざい)の早期救済を図れる仕組みにできるかは不透明と言わざるを得ない。
焦点の一つは、証拠開示の在り方である。これまではルールがなかったため、検察が重要な証拠を示さず、裁判所も検察への開示勧告に消極的な事例が目立った。袴田さんの無罪の決め手となった5点の衣類のカラー写真は、最初の再審請求の29年後に初めて示された。
冤罪の人を救うには幅広い証拠の精査が不可欠だ。しかし、開示の範囲を全面的にするか部分的にするかで意見が割れている。
部分開示を訴える委員は、弁護側が主張する新証拠に関連したものに限定すべきだとしている。幅広い開示を認めると、現在三審制を採っている裁判が「四審制化しかねない」などの理由からだが、到底納得できない。
袴田さんの事件以外でも、福井市の女子中学生殺害事件など再審請求後に新証拠が示され、無罪につながったケースは少なくない。全面開示を求める委員が、開示の範囲が限定されれば「これまで再審への道を開いてきた重要証拠が出てこなくなる」と危惧するのは当然と言える。
2005年には公判前の争点絞り込み制度の開始に合わせて必要な証拠開示が検察側に義務付けられたが、誤審の恐れを払拭したとは言い難い。幅広い証拠開示のルール化が欠かせない。
見直しのもう一つの焦点は、検察による即時抗告を禁止するかどうかである。これまでは再審開始が決まった後に、検察の不服申し立てによる決定取り消しが相次ぎ、救済が遅れる要因となってきた。
懸念されるのは委員の大半が即時抗告禁止に反対していることだ。「誤った再審開始決定を正せない」などと主張するが、説得力は乏しい。袴田さんも最初の決定が検察の不服申し立てで取り消され、第2次請求でやっと認められた。
再審は「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」が必要で、ハードルは極めて高い。再審開始の判断が出たら、ただちに再審公判を開いて審理を尽くす方が理にかなう。
再審制度の見直しを巡っては、超党派の国会議員連盟が刑事訴訟法改正案をまとめた。幅広い証拠開示と検察官の不服申し立て禁止を盛り込んでいる。法制審の議論は尊重しつつ、政治的な判断で早期救済を図れる法改正を実現すべきだ。
























