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 大分市佐賀関で11月18日夕に起きた大火は、住宅が密集する地域での火災の恐ろしさを見せつけた。焼損面積は約5万平方メートルに上り、山林や約1・4キロ離れた無人島にも「飛び火」した。約180棟が焼け、1人が遺体で見つかった。被災した住民らは不安や深い疲労の中にある。国や自治体は住宅の確保など被災者の生活支援に万全を期してほしい。

 現場はブランド魚の「関サバ」や「関アジ」の水揚げ地で知られる古くからの漁師町で、狭い平地に木造の民家が立ち並ぶ。火災発生時は強風注意報が発表されていた。風にあおられた飛び火が大量発生し、火の勢いが増したとみられる。道路幅も狭く、消火活動が難航した。

 空き家が多かったことも影響したようだ。庭の手入れが行き届いていない家屋は火が燃え移りやすく、延焼を招きやすい。消防など関係機関は原因を詳しく分析し、今後の教訓として生かすことが求められる。

 国から強風による自然災害と認定され、大分県は被災者生活再建支援法を適用した。住宅を全焼するなどした世帯に最大300万円の支援金が支給される。2016年12月に起きた新潟県糸魚川市の大火や、今年2月に岩手県大船渡市で発生した山林火災などに続き、火災での適用は4例目となる。

 冬の到来を前に、避難生活が長期化する恐れもある。被災者の多くは高齢者で、心身のストレスなどによる健康への影響が心配される。行政は専門家を派遣するなど、災害関連死や感染症を防ぐ対策に注力してもらいたい。

 木造住宅の密集地は、都市部を含めて全国各地に数多く残る。社会問題化している空き家の解消も費用の負担や登記の不備などから進んでいない。空き家が増えると倒壊や火災の発見遅れを招き、耐火性が低い建物は延焼拡大の要因となる。家主に処分を促すための助成拡充など、国は対策を強化すべきだ。

 火災を最小限に食い止めるには初期消火が重要となる。しかし各地で人口減や高齢化、過疎化が進み、消防団員の減少に歯止めがかからない。地域の防災力が低下する中で、防火設備の充実や高齢者らの避難対策、消防態勢の在り方などを考えておかねばならない。

 大分の火災では隣近所で声を掛け合って避難するなど、地域住民による「共助」が人的被害の拡大を防いだ。普段の「顔の見える関係」が安全・安心を支えることを示している。取り組みの参考にしたい。

 春先にかけては空気が乾燥し、火災発生のリスクが高まる。一人一人が身の回りの備えや防火対策を改めて点検する必要がある。