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 医療費の支払いを一定水準に抑える「高額療養費制度」が8月と来年8月の2段階で大きく変わる。2026年度政府予算の成立に伴い、患者の月ごとの自己負担上限額が引き上げられることになった。

 高額療養費制度は重い病気やけがのリスクに備えるセーフティーネットとして重要な役割を担う。改定により自己負担が増えるため、患者団体などから受診控えや治療中断を懸念する声が上がっている。政府は変更点を国民に丁寧に説明するのはもちろん、患者への影響を把握し、過大な負担が生じないよう柔軟に見直すべきだ。

 現行では、住民税非課税の人を除き四つの所得区分ごとに自己負担上限額を定めている。今年8月には所得区分にかかわらず、上限額を7%引き上げる。さらに来年8月には12区分に細分化し、現行から7~38%引き上げる。

 支払い能力に応じて負担する「応能負担」の考えに基づく見直しだが、最大の上げ幅となる年収約650万~770万円の区分では、現行で約8万円の上限額が約11万円となる。約3万円増は決して軽い負担ではない。長期療養者や低所得の人へのさらなる配慮も欠かせない。

 政府はこれまで、高額療養費制度の見直しは増え続ける医療費を抑制し、現役世代の保険料負担を軽減するのが目的だと説明してきた。

 厚生労働省が24年に打ち出した案は、引き上げ幅が最大73%になる厳しい内容だった。当初、患者団体が意見表明する機会もなく、拙速な進め方に批判が噴出したのは当然である。このため当時の石破茂首相は見直し案の全面凍結に追い込まれた。

 その後、患者団体も参加する専門委員会で議論され、高市政権下の昨年末に新たな見直し案が示された。当初案から最大の引き上げ幅が半分程度になるなど負担はおおむね圧縮された。また、長期に継続して治療を受ける患者の負担を抑えるために年間上限額が新設された。

 一方、全国がん患者団体連合会などは「月単位の上限が十分抑制されていない」との声明を出した。全国保険医団体連合会からは撤回を求める25万筆超の署名が厚労省に提出されている。

 高齢化が進む中、社会保険制度の持続可能性が重要なのは言うまでもない。ただ今回の高額療養費制度改定により、軽減される社会保険料は1人当たり月約120円に過ぎない。高額な支払いに苦しむ重病患者の負担増となる見直し以外に選択肢がなかったのか疑問が残る。

 患者の安心や希望を損なわない制度改革に向け、今後も国会で議論を重ねる必要がある。