【連載】学校いま未来
昨年10月に発覚した神戸市立東須磨小学校(同市須磨区)で起きた教員間暴行・暴言問題は、教員や学校、教育委員会が抱える課題を浮き彫りにした。さらに今春、新型コロナウイルスによっても学校現場は大きく揺さぶられた。神戸新聞社は座談会(一部リモート)を開き、同市小学校長会会長の宮本晃郎・湊小校長(59)、同市立ひよどり台小学校PTA会長の熊谷紀子さん(49)、兵庫教育大の川上泰彦教授(44)に、「学校のいま、未来」について語ってもらった。(文中敬称略)
■東須磨問題
-東須磨小の問題をどのように受け止めたか。
川上 神戸市垂水区の女子中学生のいじめ自殺に関する有識者会議で、市教委に報告書を手渡した直後の発覚だった。神戸の教育に厳しい視線が注がれている中で、ハラスメントが進行していた。現場に危機感が共有されておらず残念だ。当事者に厳罰を求める声が強かったが、それは違う。それだけで済ませては隠蔽(いんぺい)につながる恐れがあり、(不適切な事案があっても)途中で止められる仕組みの必要性を感じた。
宮本 今後も起こり得るな、と感じた。一言でいうと(加害教員の)勘違い。昔は40代でやっと一人前だったが、今は30代でも大きな仕事を任される。加害側には教員としての自覚や、明るみに出ればどうなるという想像力も欠けていた。子どもと教員だけの世界では座標軸を見失いがち。早期発見には自助努力だけではなく、保護者や地域からの指摘がいる。
熊谷 先生に裏切られた気持ちだった。一方で、神戸の教育が全て悪いように世間に捉えられ、一生懸命な大多数の先生のモチベーションが低下することも心配だった。地域や保護者が学校に何ができるかをより考えるようになった。
-神戸の教育現場では不祥事が相次いだ。背景や土壌をどうみる。
川上 いずれも個人や学校の責任感に依存し、濃い人間関係の中で問題解決を図ろうとしてきた。エラーが起きても外から見えづらく、露見した時にはすでに重大事態に発展している。組織内で「おかしい」と指摘できる関係性や仕組みがなかった。耳の痛いことは言い合えなかったのでは。
熊谷 親の間では、「大丈夫か」と「またか」。不安と諦めの声が聞かれた。学校と教育委員会が連携して問題を受け止め、次に生かせる仕組みになっているのだろうか。若手の教員が先輩に意見しにくいとは思うが、風通しのいい環境であってほしい。
宮本 神戸には先輩が残してきたものを大切に守り、受け継いできた文化がある。時間を度外視して働くことも美学になっていた。家庭訪問にかける時間も全国トップクラス。時代はとうに変わっているのに、伝統を重んじるあまり、何もかも抱えてしまった。教員の平均年齢が下がり、若い先生は少ない経験値の中でやりくりしないといけない。神戸の教育は曲がり角に立っていると感じる。
■先生の働き方
-東須磨小問題の調査報告書では「教員が多忙で、子どものこと以外にかまっていられない」と指摘された。先生の働き方はどうか。
宮本 改革は一定、進んでいるが、もっと学校のインフラに予算を使ってほしい。例えば職員室の電話。ようやく子機が付いた。これまでは、書類抱えてあっちこっちに。これだけでも全然違う。公共施設で空調が最後まで遅れたのが学校だった。
熊谷 学校から、午後5時以降の電話は控えてほしいと言われている。働いている親の立場からすると、もう少し遅い時間に相談したいが…。でも、行事一つにも分厚い計画書が必要だと聞くし、相当な努力がある。先生の数を増やしてほしい。日常生活を見てくれる人や、事務処理のスタッフも採用できないのか。
川上 マンパワーだけの問題ではない。国の分析では、児童数を半分にしても勤務時間は20分くらいしか短くならなかった。働き方を変えずに教員を増やしても、浮いた時間は丁寧な指導に充ててしまう。業務の仕分けをしなければ。
宮本 教員養成も課題。昔は3~4人が1人を育てた。今は逆で1人が4人を育てる。先輩役には荷が重い人も育てる方に回らないといけない。
川上 少子化で学校が小規模化し、若手が勤務校でロールモデルを見つけにくくなっている。例えば近隣校の中で、授業がうまい先生、地域の関係づくりに長けた先生など師匠を複数つくるのもいい。
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