『ベストドレッサー賞』に輝いた衣装をまとって。(左から)衣装を制作した母、着用した息子(画像提供:フウセンカヅラさん)
『ベストドレッサー賞』に輝いた衣装をまとって。(左から)衣装を制作した母、着用した息子(画像提供:フウセンカヅラさん)

「旦那が万博で囲碁の大会に出ることになる → 旦那『せっかくの万博ならヒカルの碁のサイみたいな格好したいね』 → 母ちゃん悪ノリで衣装作る → その服を着て参加 → コシノジュンコさんから賞を頂く → なお、囲碁の結果については私は知らない」

Xユーザーのフウセンカヅラさん(@zura1014)の投稿が16万件を超える“いいね”を集め、大きな話題になっています。舞台は、2025年8月10日に大阪・関西万博 EXPO メッセ「WASSE」《North》で開催された「ペア碁ワールドフェスティバル2025」併催の「荒木杯」です。

大会に出場したのはフウセンカヅラさんの夫と義母。二人三脚で臨んだ囲碁の全国大会で起きた予想外の出来事について、詳しく話を伺いました。

■15年越しの全国大会出場へ

フウセンカヅラさんの夫と義母がペア碁四国大会に初出場したのは15年前のこと。夫の高校時代の囲碁部の先生が県の日本棋院支部長で、声がかかったことがきっかけだったといいます。

それ以来、準優勝止まりが数回続きました。今年も四国大会では準優勝でしたが、優勝ペアが全国大会を辞退し、「荒木杯」に出場する優待権利を譲ってくれたそうです。

フウセンカヅラさんは、「形はどうであれ、義母は囲碁の全国大会出場を果たせ、また万博会場で開催されることですごく喜んでいました」と語っています。

大会には夫と義母の親子ペアで出場。夫は幼い頃、父親(8級ほど)からルールを教わり、19路盤に広告紙を重ねて9路盤で遊んでいたそうです。本格的に囲碁を始めたのは、高校時代にクラスメイトに誘われて囲碁部に入部したことがきっかけで、現在はアマ六段にまで腕を上げています。義母も息子に触発されて囲碁を始め、当時は毎日対局していたとのこと。現在は5級で、時間のあるときには囲碁クエストで対局を楽しんでいます。

フウセンカヅラさんは、「形はどうであれ、義母が囲碁の全国大会に出られたことは本当にうれしかったです。しかも会場が万博という特別な舞台で、とても喜んでいました」と教えてくれました。

■大会を盛り上げたいーー義母が衣装を手作り

大会には当初、浴衣で参加する予定でしたが、「ベストドレッサー賞」の審査があることを知った義母は、あるひらめきを得たとフウセンカヅラさんは語ります。

「義母は、音楽療法などで使用した向日葵の衣装を着けようと思っていたようです。ベストドレッサー賞があることを知った夫は、過去に出場した県大会で高校生の男の子が藤原佐為(※漫画『ヒカルの碁』の登場キャラクター)の狩衣姿で試合会場に現れたことを思い出し、世界40カ国から囲碁好きが参加する今回の大会で佐為の格好をすれば盛り上がるのではないかと考え、義母にそう伝えたそうです」

義母は5時間かけて佐為の衣装を製作しました。また、扇子は台湾棋院に行った際、「扇子をください」と言うと出してもらえたそうです。

「烏帽子は紙屋さんで厚めのものを購入して作ったようです。たまたま義母の家に夫サイズで固定された鉢巻があったので、ぴったりサイズの烏帽子が作れたと聞きました」

ひと通り衣装と小物の製作を終えた義母から写真を受け取った夫は、フウセンカヅラさんとともにその写真を見たそうで--

「夫は、そのクオリティーの高さにびっくりしていました。一方、私は囲碁の大会にベストドレッサー賞があることすら知らなかったので、衣装を見て内心ヒヤヒヤしていました」

■「佐為がいる!」の声続出ーー思わぬサプライズも

大会当日、プロからアマチュア、初心者まで、すべてのレベルの棋士が会場に集まりました。

佐為の衣装を身につけたフウセンカヅラさんの夫と義母が会場に入ると、台湾やスロバキアの選手、関西の大学生が喜んで迎えてくれました。また、一般の来場者からも「佐為がいる!」と声をかけられる場面があり、国内外から注目を集めたといいます。

フウセンカヅラさんの夫は「佐為のスタイルや顔とは似ても似つかないオッサンが着ているにも関わらず、古来衣装と囲碁の結びつきで、みなさんの中に“佐為のイメージ”を呼び戻せたことはとても嬉しかったです」と語ります。

さらに会場では、世界的デザイナーのコシノジュンコさんの目にも留まり、フウセンカヅラさんの夫は見事ベストドレッサー賞を受賞。夫には白模様の手提げバッグとガラス皿、義母には黄色模様のバッグと皿が贈られました。

フウセンカヅラさんの夫は続けて、「この衣装で出場すれば、国内外の方々に喜んでもらえるのではと思っていました。それがコシノさんに伝わり、賞につながったのではないでしょうか」と話します。

また、同じくベストドレッサー賞を獲得したメキシコ代表の棋士とは特に仲良くなり、「一局打とう」と誘われたそう。「連絡先も交換しました。今後も交流できれば嬉しいです」と語ってくれました。

■笑顔で終えた大会、囲碁の結果は…

囲碁の試合結果は0勝4敗。1回戦から4回戦まで「お母様、そこじゃない!」の連続」だったそうで、夫いわく『ヒカルの碁』のワンシーンを思わせるやり取りだったのだとか。義母も「やっぱり四国大会で準優勝では無理だな~」と笑い飛ばしたそうです。

大会への参加を終えて、夫は次のように感想を語っているといいます。

「この衣装が国内外を問わず、数多の方に対して佐為を連想させ、愛されていることがわかりました。ヒカルの碁ブーム時は、大会参加者に規制が出るほど競技人口が増えました。この度の大会、またこの衣装の話題性で、再び囲碁に目を向けていただければ幸いです」

また、義母やフウセンカヅラさんも「よくわからない状況に巻き込まれたけど、みんなで楽しめました」と振り返りました。

リプライには称賛や驚きの声、現地で実際に目撃した報告も寄せられました。

「コスプレ以前に、古来の和装としてもあり。賞を取るのも納得」
「さらっと書いてるけど“万博で囲碁の大会に出る”ってすごいこと!」
「佐為が降臨していてビックリしました。めちゃくちゃ目立ってました」
「ヒカルの碁世代として胸が熱くなった。囲碁をやりたくなる」
「衣装も素敵だけど、義母と一緒に全国大会っていうのがまたいい」
「こんな形で囲碁にスポットが当たるなんて。もっと広まってほしい」

(まいどなニュース特約・梨木 香奈)