連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

第2部 都市のモザイク

  • 印刷

 神戸・三宮の東、中央区野崎通の住宅街にあるシーク教寺院。日曜の昼、太鼓とハーモニウムの音楽が流れる中、ターバンを巻いた男性や民族衣装をまとった女性が次々と現れ、祈りをささげる。

【1】薫る異国 神戸・北野、多国籍こそ日常
拝殿で繰り広げられるインド舞踊。「北野国際まつり」は初夏の風物詩として定着した=神戸市中央区北野町3、北野天満神社(撮影・大山伸一郎)
拝殿で繰り広げられるインド舞踊。「北野国際まつり」は初夏の風物詩として定着した=神戸市中央区北野町3、北野天満神社(撮影・大山伸一郎)

 仰げば山の緑まぶしく、涼風が吹き抜ける。振り返ればビル群のかなたにかすむ海。石段を上った北野天満神社(神戸市中央区)から、異人館が手に取るように見える。

 5月、同神社であった「北野国際まつり」。神戸ポートアイランド博覧会が開催された1981年に始まり、今年で37回目になる。

 「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」。拝殿で紫のけさをまとった浄土宗願成寺(がんじょうじ)、濱田賢時(けんじ)僧侶(49)がかねをたたいて念仏を唱える。白い祭服に身を包んだ西神福音ルーテル教会の多久和律(たくわりつ)牧師(70)は「剣を鋤(すき)に変え、槍(やり)を鎌に変えよ」と聖書の一節を引用し、「平和をもたらしてください」と両手を広げた。

 「互いに認め合って生活をする。神戸からこの思いを発信したい」。北野天満神社の佐藤典久宮司(46)が黙とうを呼び掛けた。観光客や屋台の店主らも一緒に目を閉じた。

 世界平和と心の国際交流を。提唱者の米国人ジェイ・グラックさんの思いを受け継ぐ「ピースセレモニー」は、さまざまな宗教者が集い、それぞれの流儀で祈りをささげる。

 西アフリカ太鼓の演奏が始まった。中国舞踊に獅子舞、バリ舞踊に南インド古典舞踊…。拝殿は多国籍なダンスステージと化した。初めて見る者は目を丸くするが、国際まつりは地域の風習として定着した。

 佐藤宮司が言った。

 「『伝統ある神社に似つかわしくない』との声はいつの間にか消えた。この場所で続いているのは、偶然じゃなく必然なんです」

 150年前の開港以来、多種多様な文化が入ってきた神戸。その中でもとびきり異国が薫る北野。佐藤宮司の言葉を確かめようと、石段を下り、街へ。

強烈なエキゾチシズム
祈りの後、振る舞いのカレーを食べるデワン・ラジャさん(右)と妻さちよさん=神戸市中央区野崎通2
祈りの後、振る舞いのカレーを食べるデワン・ラジャさん(右)と妻さちよさん=神戸市中央区野崎通2

 異人館。明治の神戸人は、山手の斜面を埋めたカラフルな洋館をこう呼んだ。

 大勢の観光客が訪れる異人館街、神戸市中央区北野町と山本通。東西2キロ、南北400メートルの狭い地域に、キリスト教、ユダヤ教、ジャイナ教など世界11の宗教法人が集う。

 1868年の神戸港開港に伴い、外国人と日本人が同じ地域に住むことを許される「雑居地」に指定されたことで、のどかな農村だった北野の運命は決まる。「西欧の街」がすっぽりはめ込まれ、ここから強烈なエキゾチシズムとモダニズムが放射された。

 外国商人らの子孫も、海を望むことで遠い祖国とのつながりを感じられるこの地を気に入ったのだろうか。中央区に住む外国人の国や地域は、今や100を超える。

 日曜日の昼。神戸・三宮の東、同区野崎通の住宅街にあるシーク教寺院を訪れた。

 ターバンを巻いた男性たちと、民族衣装をまとう女性たちが、部屋の両端に分かれて座る。中央で太鼓とハーモニウムの奏者が歌声を響かせる。パンジャーブ語による、どこか哀愁を帯びた祈りが続く。

 1時間後。「パルシャード」と呼ばれる菓子が配られた。終わりの合図だ。小麦粉と、ギーという油で作られた甘い菓子が、一人一人に手渡された。

 階下では豆カレーにチャパティ、ヨーグルトが振る舞われる。「いっぱい食べや」。北野でインド料理店を営むデワン・ラジャさん(54)が、妻さちよさん(53)と席に着く。

 北野のレストランで出会い、結婚して25年になる。生花店に勤めるさちよさんを見て、ラジャさんは「花の中に花がいる!」と一目ぼれしたそうだ。

 関西弁を覚えた。子どもができてからは日本国籍を取得し、地元の消防団にも入った。そんなラジャさんも週に1度、ここでは「インド人」に戻る。

 「1時間だけでも神様のことを考える。それがええんや」。さちよさんは「お正月は一緒に神社に初詣に行きます。わが家は風習もごちゃまぜです」と笑った。

華僑3世「古里は神戸」
神戸華僑総会舞獅隊の中国獅子舞=神戸市中央区北野町3
神戸華僑総会舞獅隊の中国獅子舞=神戸市中央区北野町3

 北野に住んだ外国人が仕事場のある居留地へと馬車で通ったトアロード。その近くに神戸華僑会館がある。木曜日の夜、神戸華僑総会舞獅(ぶし)隊の練習が始まった。

 巨大な獅子がうねる。男の肩に別の1人が乗り、4メートル近い高さに伸び上がったかと思うと、小さく丸まり横になる。頭をかまれると無病息災。いわれは日本の獅子舞と同じだ。

 「中国では結婚式に欠かせません。神戸でも、華僑同士の結婚や、開店などのお祝い事に呼ばれます」

 5代目隊長の盧健良(ろけんりょう)さん(38)が教えてくれた。80年前、祖父母が中国・広東省から神戸へ。北野で生まれ育った華僑3世だ。

 神戸中華同文学校を卒業し、神戸の公立高校へ進んだ。「ずっと華僑の仲間で固まっていたのが、急に日本社会に放り出されて」。多くの華僑が通る道だという。

 高校3年から舞獅隊に加わり、のめり込んだ。日本の伝統芸能と同じく、担い手不足に悩む。理由は「華僑意識の薄れ」だ。3世になると、日本人との結婚も増える。

 獅子舞を知らない同世代も多いが「中国から見たら異国の神戸で大事なものが続いているのはすごい。絶やしたくない」と盧さん。誇りものぞくが、「古里は、と聞かれると、広東省じゃなく、神戸なんです」。

輝く「雑居地」の記憶
「世界の童謡フェスティバル」に出演した子どもたち。和装にチマ・チョゴリ、インドの民族衣装が一堂に。「いろんな国の子がいて当たり前」と張文乃さん(2列目左から4人目)=神戸市中央区中山手通2
「世界の童謡フェスティバル」に出演した子どもたち。和装にチマ・チョゴリ、インドの民族衣装が一堂に。「いろんな国の子がいて当たり前」と張文乃さん(2列目左から4人目)=神戸市中央区中山手通2

 日本、インド、中国、フランス。ルーツが異なる神戸、阪神間の子どもたち14人が次々に歌い、踊る。

 5月、トアロードに面するNHK神戸放送局で「世界の童謡フェスティバル」があった。上海出身の父と愛媛出身の母の間に生まれた張文乃(ちょうふみの)さん(76)が企画した。「世界のこどものごあいさつ」を全員で合唱する。8回目となり、少しずつ定着してきた。

 インド人のサーハニ・アイーシャちゃん(6)ら3人は、象の顔をしたガネーシャ神の踊りを披露した。大阪で生まれ、20代で南インド古典舞踊を始めたモガリ真奈美さんが手ほどきした。

 「インドで学んだ踊りを、インド人に教えるのは変な気持ち」。モガリさんは笑うが、在日インド人からの依頼が最近、増えた。受け継ぐのに、国籍は関係ないのだろう。

 海を渡ってもたらされた文化や信仰は、生活の薫りを感じるからこそ、伝わってきた。華やかさに淡い郷愁がにじむ「雑居地」の記憶が、いま伝統としての輝きを放つ。

 高台から神戸の海を眺める。その向こうに、異国の人々の故郷を見た気がした。(記事・上田勇紀、写真・大山伸一郎、大森武)

【神戸の外国人】
神戸新聞NEXT
神戸新聞NEXT

 神戸市内に住む外国人は4万5994人(今年5月末現在)。兵庫県全体の半数近くを占める。中央区や長田区を中心に、朝鮮・韓国、中国、ベトナム、台湾、米国、フィリピン、インド、ネパール、ブラジルなどが多く、国籍・地域数は142に上る。10年前と比べて27増えており、多国籍化が加速。世界各地の人たちが暮らす日本有数の国際都市となっている。

天気(9月26日)

  • 27℃
  • ---℃
  • 20%

  • 25℃
  • ---℃
  • 60%

  • 27℃
  • ---℃
  • 10%

  • 27℃
  • ---℃
  • 30%

お知らせ