■99年の完全回復めざす
旅客船やフェリーが出入りする中突堤。ポートタワーを横目に、遊覧船が親子連れを乗せて出発する。和田岬・神戸大橋・摩耶埠頭へと港内を周遊する「神戸港めぐり」。
一九五〇年に「神戸港見学船」としてスタートした港めぐりは、三宮、北野と並んでミナト神戸を代表する観光スポットだ。しかし、客数はいまだ震災前の六割強にとどまっている。
港めぐりを運航する「神戸観光汽船」は、震災で社屋が全壊したものの、四隻の船は被災を免れた。
「なんとか船を走らせたい」と、遊覧船「ゆうかり」と「すずかけ」を、神戸大橋の倒壊で交通手段を絶たれたポートアイランドとメリケン波止場を結ぶ交通船に変えた。周遊船は四カ月間、被災市民の足になった。
港めぐりは、交通船の廃止と同時に復活した。が、「港や街の被災見学船のようで、これまでで一番つらい港めぐりでした」と同社社長の黒田英一さん(56)。「百万ドルの夜景もどこかに消えていたし」。
復活直後は被災地支援の追い風を受け、瞬間的に客足は戻った。しかし、一週間を過ぎると「空気を運ぶ日が続いた」。
港内周遊の復興を目指し、同社や神戸市は震災後、全国各地でキャンペーンを展開。その結果、客足は徐々に戻り、九六年末には震災前の六割近くに復旧した。
そして今、同社は二〇〇〇年をにらむ。
明石海峡大橋開通を前に、三月一日からは大橋が見学できる新航路をスタート。中突堤・塩屋沖間を巡る約二十七キロ、一時間半のコースだ。四月からはレストラン船「パルデメール」も就航する。
九九年には、中突堤とハーバーランドとの間の再開発も終わり、飲食、レジャーなどの機能を併せ持つ集客施設が完成の見込みだ。「明石海峡大橋が開通する九八年には震災前の八割に、再開発が終わる九九年には十割に客足を戻したい」。被災した神戸港観光を支えてきた黒田さんが持つ、今後のビジョンだ。
二〇〇〇年に航路開設五十周年を迎える港めぐり。「光が差したとは言えませんが、トンネルの先に小さな明かりが、やっと見え始めた気がするんです」。
1997/3/5