記事特集
被災者自立支援金の支給をめぐる訴訟で敗訴した、阪神・淡路大震災復興基金(理事長・井戸敏三兵庫県知事)は十九日の理事会で、上告を断念する方針を決めた。同基金は、判決確定を受け、世帯主被災要件を緩和する制度見直しを八月中をめどに検討する考えを示した。同基金によると、世帯主被災要件が理由で却下された事例は、最大で推計約二千件といい、必要な費用は最高約二十億円に上るとみられ、すべて基金で賄う方針。
申請当時、世帯主の夫が被災していなかったことを理由に、申請を却下された萩原操さん(63)=神戸市灘区=が「震災後結婚し、世帯主でなくなったため、支援金支給を却下されたのは法の下の平等に反する」として、同基金を訴えていた。
今月三日の大阪高裁の控訴審判決は「世帯主の被災を支給要件としたのは公序良俗に反し無効」と支援金百万円の支給を命じた一審・神戸地裁の判決を支持。同基金側の控訴を棄却した。
この日開かれた理事会では、全員一致で上告断念を了承したという。
また、制度の見直しについては、震災時に世帯主だった被災者が、基準日(一九九八年七月一日)の時点で、非世帯主であるケースについては、世帯主被災要件を満たしていない場合でも支援金を支給する措置を検討する。今回の原告女性と同様に震災後の結婚の場合のほか、息子や娘と同居した場合などが考えられるという。井戸知事は「八月中をめどに内容を固め、速やかに実施したい」と述べた。
理事会後に会見した井戸知事は断念を決めた理由について「震災後七年半を経過し、被災者との争いをこれ以上長引かせるのは、被災者の生活再建を図る基金の立場から本意ではない」「一、二審とも敗訴した事実を受け止めた」などと総合的な判断を強調した。
<被災者自立支援金>
被災者生活再建支援法の付帯決議に基づいて創設。一九九八年七月一日を基準日とし、震災で住居が全壊(焼)するか、半壊して解体した世帯に対し、年齢や所得に応じて最高百五十万円を支給する。財源は県と神戸市が創設した復興基金。同基金から委託を受けた市町が審査・決定し、今年三月末までに約十四万五千七百世帯が約千四百四億円を受給している。
2002/7/20