記事特集
阪神・淡路大震災で阪神高速道路が倒壊し、犠牲になった兵庫県西宮市甲子園浦風町、会社員=当時(51)=の母(79)が、阪神高速道路公団(佐藤信彦理事長)を相手取り、国家賠償法に基づき約九千二百三十万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が二十八日、神戸地裁尼崎支部で言い渡された。渡辺安一裁判長(病気のため石田裕一裁判長代読)は「倒壊は設計震度を上回る地震力が原因。橋脚の欠陥や管理の不備も認められない」とし、公団側の主張を全面的に認め、原告側の請求を棄却した。
今回の訴訟は、自然災害で公共構造物が倒壊した場合に、設置管理者である公共団体の責任が問えるか、という点で注目を集めたが、原告側の「倒壊は設置・管理を怠った末の人災」との訴えは退けられた。原告側は控訴する方針。
一方、渡辺裁判長は阪神高速神戸線で、同訴訟の現場以外の橋脚について「ずさんな工事が見逃されてきた」とも言及した。「本件橋脚の欠陥までは推定できない」としたものの、同高速道路全体において、施工状況の不備を指摘した格好といえる。
訴訟での主な争点は、橋脚自体の欠陥の有無▽耐震設計基準の適正さ▽現場での地震動の強さ▽立証責任の所在-の四点。
判決では、「想定されていた関東大震災級を上回る地震動が橋脚を襲った」などの理由で予見可能性を否定する公団側の言い分を認めた。さらに、複合的な施工不良があったとする原告側の主張に対し、「必要な強度を満たし基準通り施工されていた」とした。
公団側が「関東大震災級に耐えるよう設計し、その後も適正に管理してきた」とした耐震設計基準や「橋脚が二カ所で破断した」という倒壊メカニズムについても、主張を全面的に認めている。
主張認められた 阪神高速道路公団・藤田真理事の話
公団の主張が認められた結果であると理解しているが、阪神・淡路大震災による高速道路の倒壊・落橋などによって尊い人命が失われたことを忘れることなく、今後とも道路の安全対策に努力していきたい。
不当審理追認できぬ 原告弁護団の話
最悪の判決。立証責任をすべて原告に課した不当な審理方法で追認できない。問題にしてきた公共構造物の安全性の究明が何もなされなかったと言わざるを得ない。裁判官の交代が続き、一人の証言も聞いていない人が判決を書いた。書面審理が露骨に表れている。(裁判長が病気のため)短い間で判決文が書かれた。延期してでもきちんとするべきで、極めて遺憾だ。
【阪神高速倒壊訴訟】
阪神・淡路大震災で阪神高速道路が倒壊し、亡くなった萬英治さんの母みち子さんが1997年1月、阪神高速道路公団に賠償を求め提訴、2002年10月に結審した。阪神高速の倒壊などにより計16人が死亡したが、裁判で公団の責任を追及したケースは同訴訟だけ。震災犠牲者の遺族が公共団体を相手に起こした唯一の国家賠償請求訴訟でもある。担当裁判官が計14回交代し、結審が延期されるなどした。