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(1)エイサー響く 焼け跡から始まった
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故郷・長田で沖縄の仲間たちとエイサーを踊るなおちゃん(左奥)=3月6日、神戸市長田区若松町5
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故郷・長田で沖縄の仲間たちとエイサーを踊るなおちゃん(左奥)=3月6日、神戸市長田区若松町5

故郷・長田で沖縄の仲間たちとエイサーを踊るなおちゃん(左奥)=3月6日、神戸市長田区若松町5

故郷・長田で沖縄の仲間たちとエイサーを踊るなおちゃん(左奥)=3月6日、神戸市長田区若松町5

 化学製品が燃えたのだろうか。刺激臭が漂っていた。地震の数日後。小学校教員の中溝恵子さんは児童の安否確認で校区を歩いていた。卒業生の姿を見つけ、「なおちゃん」と声を掛けた。

 「家、焼けてしもた」

 視線の先に焦げたがれきの山があった。言葉に詰まったとき、「見てみい」と声がした。彼女の父親が焼け跡から何かを取り出した。熱で変形した塾の表彰盾だった。

 「わ、ここ、うちや。間違いないわ」。あっけらかんと笑う父子に、中溝さんのほおが緩んだ。

 なおちゃんは神戸市立西代中学二年生。家は神戸市長田区御船通にあった。

 なおちゃんが神戸に戻ってくる。エイサーを長田で踊るんやて。教えてもらうねん。

 沖縄に行って、なおちゃんの民宿に一カ月いて、お手伝いもしたんよ。なおちゃんがするエイサー、私もしたかった。

 家族とそんな長く離れたのは初めて。自分が人の役に立てるって思えたのも初めて。自信がついた。友達もできた。神戸に帰ったら「ひろみちゃん、変わったね」と皆にいわれたよ。

 今年三月六日、雪が舞うJR新長田駅前。

 岡島ひろみさん(22)が沖縄県糸満市から来た「友達」にエイサーを習っていた。母の富美子さん(51)は、引っ込み思案で、人と話そうとしなかった娘が、進んで広場での教室に加わったのがうれしかった。

 富美子さんは、知的障害のある一人娘を「抱え込んでいた」という。なおちゃんが二〇〇二年十一月、糸満市で民宿の女将(おかみ)を始めるとき、ひろみさんを旅行に誘った。旧知のなおちゃんだったから、富美子さんも認めた。

 開業の直後、ひろみさんは簡単な仕事を任された。掃除はほうきを動かすだけではだめ。卵焼きを作るにはこつがある。繰り返し教えられ、やがて自分で考えて動けるようになった。滞在が長引いた。一人住まいのなおちゃんも、同居人がいて心強かった。

 沖縄の伝統芸能エイサーを独自の群舞に脚色して演じるグループ「風之舞(かじまぁい)」が四月三日、新長田ピフレホールで初の県外公演に挑戦する。メンバーのなおちゃんの発案。長田でのエイサー教室は事前PRだ。ひろみさんは太鼓をたたき、懸命にステップを刻んだ。

    ◆

 「震災から始まった」となおちゃん、藤原奈央子さん(23)は話す。家を失い、友人を亡くした。支えになったのは、人との出会いの数々。十年目の今、沖縄にいる。地震でも壊れないものを「なおちゃん」は紡ごうとした。その歩みをたどりたい。(記事・宮沢 之祐、写真・岡本好太郎)

2004/3/22
 

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