「いいな」と思ったら、なおちゃん(23)はすぐ動く。結果、うまくいかないこともある。進学の際、神戸大学経済学部夜間主コースを選んだのは、昼間にしたいことがあったから。学業は意欲がわかないままになった。
別の「いいな」があって、大学中退を決めた。沖縄で知り合った郵便局員下司(げし)浩さん(50)=京都市=が遺産を相続したのがきっかけだった。冗談で「沖縄で民宿をしたら」と提案した。
「おもろそうやな。おまえ、女将(おかみ)をやらんか」
思いがけない展開ながら、「出会いの場をつくりたい」と考えていたなおちゃんはその場で引き受ける。子どもたちの居場所となった「宙(そら)」から離れるのは後ろ髪が引かれたけれど。
下司さんは宿で友達と楽しめればよくて、儲(もう)ける気はない。宿の方針はなおちゃんが決めた。障害者も利用できる。広間に「宙」と同じように大きなテーブルを置く-。
沖縄本島南部、糸満市の海亀が産卵に来る海岸近くに土地を見つけた。オーナーが命名した民宿「ヤポネシア」は二〇〇二年十一月、開業した。
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沖縄に移ったなおちゃんは、偶然入った茶店の経営者大城邦子さん(56)と親しくなった。「沖縄のお母さん」と呼ぶ。
実は初対面の時、男の子と間違えた。それで親しくなるのも、おかしいね。太めの体形が似てるからかな。料理や方言、分からないことがあったら、聞きに来る。
ゆしいりて、ちゃーびたん。「こんにちは」の敬語です。皆が忘れたような方言を、なおちゃんはパッと使う。おじい、おばあは喜ぶわけさ。知らない土地でどう生きるかを分かってるよ。
夜、ヤポネシアのテーブルに、宿泊客や店を終えた大城さん、近所の人が座る。「ゆんたく(おしゃべり)」が始まる。
エイサーのグループに参加し、コミュニティFMで民謡番組のDJもしている。沖縄でも、なおちゃんは元気だ。
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二十八日、なおちゃんは急ぎ足で神戸に帰り、開店十周年を迎えた共働作業所「くららべーかりー」の記念行事に出た。お祝いしたかった。代表の石倉泰三さん(51)は二年前、「どこにいても応援してるで」と沖縄へ送り出してくれた。その言葉を支えにしてきた。
「間違いを指摘してくれるのも周りの人。人とのつながりがマイナスになることって、ない」
2004/3/30