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(2)火災発生 「避難してくださーい」
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震災後の長田を描いた本に、なおちゃんたちが登場する。佐野由美さん著「路地裏に綴(つづ)るこえ」から
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震災後の長田を描いた本に、なおちゃんたちが登場する。佐野由美さん著「路地裏に綴(つづ)るこえ」から

震災後の長田を描いた本に、なおちゃんたちが登場する。佐野由美さん著「路地裏に綴(つづ)るこえ」から

震災後の長田を描いた本に、なおちゃんたちが登場する。佐野由美さん著「路地裏に綴(つづ)るこえ」から

 波打つ床に、はいつくばった。物が倒れ、砕ける音が暗闇に響いた。一九九五年一月十七日、落ちた時計は、午前五時四十六分で止まった。

 神戸市長田区水笠通四にあった山吉市場の住宅兼店舗。「大丈夫や」。鞍本長利さん(53)は、泣き出した長女麻衣さん(29)と二女紗綾(さや)さん(24)に繰り返した。自分にも言い聞かせるように。

 娘二人は脳性小児まひで、車いすの生活をしている。抱いて移動するのは難しい。寒さに耐えながら夜明けを待った。

 倒れた電柱。崩れて道をふさぐ長屋。でこぼこの道路。車いすでは動けず、車で避難するしかない。午前九時、麻衣さんを抱きかかえて駐車場へ。すぐ西で火の手が上がった。紗綾さんも運び、妻と義母をせかせた。

 皆を乗せてから後輪のパンクに気付いた。慌てた。工具を探す。ジャッキがかみ合わない。火が勢いを増して押し寄せてくる。市場の人が見かねて手伝ってくれ、タイヤを交換できた。炎を避け、車を走らせた。

    ◆

 揺れた瞬間、中学二年の藤原奈央子さん(23)は布団をかぶった。鞍本さん宅の約八百メートル北東に住んでいた。まだ、お互いを知らない。「なおちゃん」は、子ども会を通じて大人たちにも顔が広かったのだけれど。

 壁が少し落ちたが、家は立っていた。元消防団員の父、修さん(49)はすぐ、生き埋めになった人の救出活動に加わった。

 自治会のおっちゃんに言われて、弟の央樹(ひろき)と近所のよし君の三人で避難を呼びかけました。「区役所へ避難してくださーい」って大声で。あちこち歩いたから目立ったかも。あとで、震災を書いた本に三人の絵が載って、驚いた。「あんた、持ってき」って、おにぎりをもらったりもしました。火事は離れてたし、うちが燃えるなんて思わんかった。だから、なーんも取り出せんかった。

    ◆

 鞍本さん宅のすぐ南には、なおちゃんの同級生がいた。竹本早加恵(さかえ)さん=当時(14)。家が崩れ、妹の裕美さん=同(12)=とともに太いはりの下敷きになった。

 息をできないほどの土ぼこりだった。母の元子さん(53)は「時間の感覚がなかった」と振り返る。まず妹が、次に姉が引き出された。

 夕刻、なおちゃんの家が炎上した。友達の不幸はまだ知らなかった。

2004/3/23
 

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