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(6)出会い 「場」つくる大人を見つめ
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人と人をつなぐパンを焼いて、今年開店10年を迎える=神戸市長田区三番町2、くららベーカリー
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人と人をつなぐパンを焼いて、今年開店10年を迎える=神戸市長田区三番町2、くららベーカリー

人と人をつなぐパンを焼いて、今年開店10年を迎える=神戸市長田区三番町2、くららベーカリー

人と人をつなぐパンを焼いて、今年開店10年を迎える=神戸市長田区三番町2、くららベーカリー

 震災の一年後、県立長田高校に入学したなおちゃん(23)は、震災体験を語らなくなった。被害の軽かったニュータウンに住む同級生が多かった。分かってもらえないと思った。「かわいそう」と言われたくなかった。

 といって、閉じこもったわけではない。入学してすぐ文化祭のスタッフになった。二年生で生徒会長になった。そして、障害者と出会った。

 神戸市立垂水養護学校の生徒会長だった鞍本紗綾(さや)さん(24)が交流を提案してきた。養護学校生の介助をしながら福祉施設で一泊をともに過ごす。会長のなおちゃん自らが参加した。

 初めての経験。「生徒会長だからって気負っても役に立たない。何をしていいか分からず、最初の一時間は正座してた」。でも、その後は一緒に遊び、料理した。自然体でよいと気付いた。明るい性格の紗綾さんと気が合った。車いすを押し、二人で映画や買い物にも行くようになった。

    ◆

 紗綾さんの家は神戸市長田区の山吉市場にあった。姉の麻衣さん(29)も車いす生活。猛火が迫った震災の朝、父、長利さん(53)が運転する車で逃れた。しかし、姉妹に寒い避難所での生活は無理だった。流動食も手に入りにくい。

 デイケア施設の所長だった長利さんは、設備の整う垂水養護学校を障害者の避難所にするよう働きかけ、実現させた。約百四十日間、障害者とボランティアとが寝食を共にした。

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 山吉市場には「くららベーカリー」があった。紗綾さんの入浴介助をした帰り、甘いにおいに誘われ、なおちゃんは店にいた石倉泰三さん(51)に話しかけた。余ったパンをもらった。障害者の雇用の場を作ろうと、泰三さんが脱サラして開いた共働作業所だと知った。

 味にこだわって開店したという心意気に打たれた。「かわいそうと思って障害者に“してあげる”のなら、やめた方がいい」。石倉さんの言葉が胸に残った。

 なおちゃんとは親子みたいな、友達みたいな感覚。高校のころは毎日のように来てたなぁ。パンを一緒に作ったし、高校で注文を取ってきたり、点字の注文書を作ってくれたり。

 くららを、映画の寅さんの茶の間のようにしたいんです。いつも誰かがいて、泣いて笑って。パンの味はもちろん大事だけど、パンで人とつながることがうれしい。それがうちらのパン。震災後、そう気付きました。

 「出会いの場」をつくろうと、大人たちは頑張っていた。

2004/3/27
 

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